その上で、峰医師は各旅行会社らの対策ぶりについてこう評価する。
「総じて言えば、不特定多数の人との接触を減らす、マスク着用や消毒などで感染経路を遮断する、3密の状況をあらかじめ作らせない、という対策のパッケージは極めて合理的です。こうした事業者の取り組みに加えて、個人としてできる対策を徹底して行えば、それほど大きな感染リスクもなく、旅行を楽しめるでしょう。
旅行前の検査などは偽陰性の問題がありむしろ意味がなく、それよりも『自分の体調に異変を感じたら、他の人のためにその場で移動をやめる』というマインドセットを持つことが、今後はとても大切になります。他人のために自分の体調管理をし、自信が持てれば『旅行しよう』ということです。
新型コロナを恐れて外出しないことで、知らず知らずのうちにストレスを溜めて体調を崩すことがあります。できる範囲で外出・旅行し、気分転換をすることは非常に重要です。新型コロナだけに注目するのではなく、人間としての幸福は何かについて考えることも大事でしょう」
「ずらす」ことで新たな発見がある
このように、「ずらし旅」のコンセプトで感染リスクを避けつつ旅行することは、むしろ人間にとって幸福につながるといえそうだ。マイクロツーリズムを提唱した前述の星野代表は、「時間や時期を『ずらす』という考えは、3密回避になることはもちろん、観光業の積年の課題である『需要の分散』にもつながる」と指摘する。
「国内旅行は23兆円という巨大市場にもかかわらず、需要の多くがGW、夏休み、年末年始、そして土日と、1年365日のうち約100日に集中しています。残りの265日はいわば閑散期ですから、業者は年に100日の黒字と265日の赤字を生んでいることになる。
そのデメリットは大きく、観光業に携わる人だけの問題にとどまりません。旅行シーズンには必ず道路が渋滞し、新幹線や飛行機は満席、ホテルや旅館も満室で、観光地は混雑する上、旅行代金も高額になっています。旅行需要をずらす=平準化すれば、3密が回避できるだけでなく、国内旅行につきものだった渋滞や混雑がなくなり、今より安く旅行できるようになるはずです」(星野代表)