芸能

『天使にリクエストを』 上白石萌歌の昭和歌謡が沁みる理由

番組公式サイトより

 大作が大団円を迎え、次のクールが始まるまでの端境期、良い作品との出会いを求めるドラマファンも少なくないのではないだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレコメンドする。

 * * *
 沁みるワンシーン。こんな演出の仕方があったのか、と思わず膝を叩きたくなるドラマ。上白石萌歌が『アカシアの雨がやむとき』(西田佐知子のヒット曲)をしっとりと歌う。その声は柔らかく響き、60年前の過去と今とが画面の中で一瞬重なりあいました。半沢ロスを嘆いている視聴者の方々にも、素敵なドラマが放送されていますよと(おせっかいではありますが)伝えたくなる。

『天使にリクエストを ~人生最後の願い~』(NHK総合土曜午後9時)は探偵事務所が舞台。生きる意味を見失った探偵・島田修悟(江口洋介)、助手・亜花里(上白石萌歌)、看護師・寺本春紀(志尊淳)、スポンサーである謎めいた老女(倍賞美津子)。4人がいわば一つのチームのようにして、死を前にした依頼人の“最期の願い”を叶えようと走る。

 舞い込んでくる依頼の一つ一つが、他にはない個性的な「願い」。第1・2話では60年前に息子を捨てた母・幹枝(梶芽衣子)が、一度だけ「息子に会って謝りたい。捨てたくて捨てたのではないことを伝えたい」と望むが、息子はどこに……。

 このドラマの特徴的な点とは、毎話、昭和歌謡を歌うシーンが入ること。しかしミュージカルではない。セリフのやりとりからごく自然に、歌へと話題が移っていく。普通の演出なら過去の曲を流すのだろうけれど、このドラマではキャストが歌い始めるのです。

 第1話では、予期せぬ事故で息子を失った探偵・島田(江口洋介)が、『無縁坂』を途中まで歌いかけ辛くなって口をつむぐ。第2話では、亜花里を演じる上白石萌歌が『アカシアの雨がやむとき』を歌う。その歌は上手さだけではなく、ストーリーに寄り添った温かさと切なさや昭和の息吹、郷愁といった複雑な要素が伝わってきて、しっとりと画面を包みました。母親が60年前に息子を捨てざるをえなかった背景も、歌の中に浮かび上がるようでした。最初はセリフのように自然に響く歌が、言葉より深く人の心に染み込み歌詞が祈りの言葉にさえ聞こえてくるから不思議です。

 それにしてもなぜ、毎回「昭和歌謡」なのでしょう? 過去の出来事に焦点が当たってその時代にヒットしていた歌が出てくる、というストーリー上の理由もありますが、それだけではないはず。

 歌詞にヒントが潜んでいそうです。昭和歌謡は人生の苦さ、喪失の苦しみ、光を見つけた希望などが、まるでドラマの一コマのようにくっきりと浮き上がる歌詞が多い。そうした歌を、ドラマの中でキャストがあらためて歌うことによって二つのドラマが重なりあい「ドラマ・イン・ドラマ」の相乗効果を生み出すからではないでしょうか。

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン