三越にオープンした高級家電ショップの狙い
ビックカメラは今年2月、百貨店の発祥の地である東京・日本橋の三越日本橋本店に新しい店舗をオープンした。
店内はビックカメラの店とは思えない雰囲気だ。木目調の床にソファを配置し、顧客がくつろぎながら接遇を受けられるようにした“クオリティタイムゾーン”と銘打っている。約360万円の88型の8Kテレビや掃除ロボットなど、普通のビックの店にない高級家電を取り揃えた。最新のコーヒーマシンやキッチン家電を完備し、試飲や試食も可能だ。
この店の最大の特徴は「ビックカメラ スーパーサポートPREMIUM」にある。有料会員になった客が家電を購入すると、配送してくれるだけでなく、自宅にビックの社員が赴き、設置や初期設定から使い方までサポートしてくれる。習得するまで、とことん付き合ってくれるという念の入れようだ。
ひとことで言ってしまえば、三越と組んで、富裕層に高級家電を売り込む実験店、アンテナショップなのである。そのため、三越がビジネスマナー研修を実施。店員の服装もビック定番の赤いベストではなく、スーツ着用である。
三越には家具・リビングフロアがある。家具の購入やリフォームを考えている客が、三越のスタッフに案内されてビックカメラの店を訪れる。三越伊勢丹のエムアイカードを通じて顧客の購買履歴や生活スタイル、趣味・嗜好まで、客のすべてを把握している三越のコンシェルジュ(ベテラン販売員)が同席して、顧客のリクエストを伝える仕組みだ。
ビックカメラは客がイメージする生活シーンの最適な解答を、フトコロ具合にあわせて提案する販売戦略を強化しつつある。
ビューティー家電で女性客取り込み
一方、ビックカメラの各店舗は美容家電や高価格・高性能のドライヤーなど、ビューティー家電の取り扱いを強化。売り場のおしゃれ度をアップし、女性客にターゲットを絞っている。
ネット通販も拡大した。2019年8月期にはビックカメラ、コジマなどグループ全体の連結ネット事業で売り上げ1000億円を達成した。楽天と組み、楽天市場内に家電ECサイト「楽天ビック」を新たに開設した。女性客が多い楽天市場に出店し、自社サイトでは手薄だった女性客の取り込みに力を入れている。
いま、EC(電子商取引)の伸長ぶりが家電量販店を悩ませる一因にもなっている。ネットで家電を買う若い世代に対応するため、各社とも「EC強化」で一致しているが、
「利益貢献度は大きくない。アマゾンや楽天といったEC事業者のプラットホーム上では値引き(販売)が常態化。リアルな店舗の最大の強みだった『安さ』では、もはやECとの差別化は無理。ECのほうが安いというイメージが強い」(家電量販店の経営に詳しいアナリスト)
というのが実情なのである。そこでEC対策として量販店が訴求し始めたのが、「ECにはないクオリティ」(同)だ。前述したビューティー家電も、最も身近で日常的なクオリティの追及である。