火花散らした「シエンタ」「フリード」の本当の実力
一方、シエンタと同じ小型ミニバンのフリードだが、こちらはシエンタほどには数を減らしていない。だが、ホンダディーラーも前出のトヨタ系販売店の関係者と似たような実感は持っているようだ。
「フリードやトヨタさんのシエンタが販売好調だった理由のひとつにリセールの良さがあります。中古車市場でそれだけ人気が高かったからです。でも、スペースや利便性への関心が薄くなれば、その構図は崩れます。一時的なものであればいいのですが、新車販売の現場ではそういう嗜好変化の兆候が出ています。
フリードの販売台数が減っていないのは、他にも売るクルマが山のようにあるトヨタさんと違って、ウチはこれが売れないとまずいということで頑張っただけのような気がします」
ちなみにミニバンの最大ボリュームゾーンである全長4.7m級モデルは多人数乗車を必要とする顧客からの引き合いが強いことから需要は戻るかと思いきや、こちらもトヨタが『RAV4』『ハリアー』などの新鋭SUVを続々投入したことが影響してか、販売台数を大きく減らしている。ミニバンで好調なのは高級車扱いの『アルファード』くらいのものである。
では、この先もシエンタ、フリードクラスの小型ミニバンは衰退していくのであろうか。これは前出のように、ポストコロナの世相の変化次第というところであろう。トヨタ、ホンダ以外のメーカーはこのクラスから撤退してしまったが、両社が競争で火花を散らし続けてきたことが奏功してか、一長一短はあれど双方とも商品力はすこぶる高い。
多人数乗車のニーズは実はそれほど多くないと書いたが、両モデルとも3列目シートは飾りではない。2列目シートの足元空間をそこまで広げなければ、大人6名が窮屈な思いをせずに乗ることなど朝飯前だ。3列目シートの片側を畳むといったアレンジを加えれば、5人+大量の荷物を積むこともできる。たった4.3m足らずのショートボディにして、トランスポーターとしての能力は折り紙付きである。
そして、両モデルに共通しているのは、実は運ぶだけが能ではないということだ。顧客の歓心を買わんとして、走りや乗り心地のチューニングはとても丁寧に行われており、鈍重なイメージを裏切る性能を有している。
シエンタの特徴は、あろうことかハンドリングの良さ。ベースは旧型『ヴィッツ』だが、同じプラットフォームを使う『アクア』、『カローラ』などと比べてもハンドリングの質が一番高かったのは断然シエンタだ。