ところが去年のカレンダーを担当した男が「そもそも2月だけ31日じゃないのが仕組みとして変なんだ」と言い出した。嫌な予感がした会長が去年のカレンダーを見ると、4月も6月も9月も11月も31日まである! 「……今日は9月9日だ」
とりあえず夜中なのでもう解散しよう、と丘のデジタル時計を見ると23時58分58秒、59、60、00……。
「1秒多いよ!」
一昨年から毎分1秒遅れていた、ということは……。
さらに次々と明かされる新事実。大詰めで会長が気づく衝撃的な真実は、映画や演劇などでは絶対に表現できない落語ならではの手法だ。
もちろん「スマホとかテレビで日時はわかるだろう」というツッコミは可能だ。だが、そうした外部情報がない世界が存在したら? 設定を不自然に思わせる隙を与えない圧倒的な面白さで「“客観的な時間”は存在するのか」という命題を我々に突きつける、文句なしの名作だ。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年11月6・13日号