神奈川県横須賀市にある「防衛大学校」は、将来の幹部自衛官を養成する教育・訓練施設だ。4学年の約2000人が敷地内の寮で学生生活を送るが、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言下の4月から5月にかけて、訓練も授業も行なわれていないのに、学生たちが敷地からの外出を許可されない“軟禁状態”にされていた。等松教授が今回、岸防衛相らに申出書を送った原因の発端は、こうした防衛大のコロナ対応のまずさにあったという。
「等松教授が送付した文書ではまず、コロナの感染拡大が続く3月下旬に春期休暇で帰省中だった学生を大学校敷地内にわざわざ呼び戻した対応に疑問を呈しているといいます。約500人の新1年生も、4月1日から着校させられた。
この時期、人文社会科学系の一部の学科長らはコロナ感染が広がるリスクを踏まえて、帰校、着校の延期などを進言していたそうですが、國分良成・学校長や幹事の原田智総・陸将に聞き入れられなかったとしています」(同前)
その結果、4月7日に緊急事態宣言が出されると、防衛大の敷地内では8人以上が1部屋で生活する寮(学生舎)に学生たちが軟禁状態となった。授業も訓練もなく、ストレスが溜まる状況のなか、脱柵(脱走)や自殺未遂が相次ぎ、賭博行為などが発覚したことなどは本誌・週刊ポストでも詳報している(6月26日号)。別の防衛大関係者はこういう。
「当時、約130人いる教授陣をはじめとする教官たちも敷地内には入れない状況でしたが、学生舎内で何が起きているかの報告や連絡、事故・不祥事に関する説明は執行部からまったくなかったといいます。心配した一部の教官が、独自にメールで学生アンケートを取るなどしたことにより、複数の自殺未遂が発生するなどの異常事態が関係者の間で知られるようになった。
しかし、その後も6月9日に開かれる予定だった全学教授会が直前になって中止になるなど、教官たちへの説明はなさないままで、そうした防衛大執行部の不祥事を隠蔽するような対応に、教官たちも不信を募らせていったといいます」
國分学校長ら執行部による説明責任の回避が、申立書の提出につながったとみられているのだ。