芸能

酒井政利氏が振り返る筒美京平さん 「異の人だった」

aa

1979年、レコード大賞を受賞した『魅せられて』の授賞式での筒美さん(右)と酒井さん

 昭和を代表する作曲家・筒美京平さんが2020年10月7日、誤嚥性肺炎でなくなった。80才だった。3000曲近くを制作し、作曲したシングル総売上枚数は7560万枚で、作曲家別ランキングでは歴代1位である。そんな偉大な筒美さんについて、郷ひろみや山口百恵を手掛けた音楽プロデューサー・酒井政利さんが寄稿した。

 * * *
 昭和歌謡に洋楽のスパイスを取り込み、昭和POPSとして最前線で牽引してきた作曲家だった。まさにJ-POPの元祖であり、世代を超えて愛される昭和歌謡の大黒柱でもある。

 高度経済成長が右肩上がりの時代、昭和が変貌しようとしていた。歌謡界も同様で、CBS・ソニーが設立され、新しい音楽を模索できるのではないかと移籍した私は、フランク・シナトラの売り出しのキャッチコピーがアイドル路線の“女学生の友”と知り、刺激を受け、かわいさだけでなく芯のある、意思を持った素材を探し始めた。

 そんなときに出会ったのが16才の南沙織。アイドル路線でデビューさせたいというと、まだ“アイドル”という言葉はたまに専門誌で見かける程度だったため、社内では反対意見も多かった。それまでの歌謡界は古賀政男氏の哀感メロディーに代表される演歌、古関裕而氏の行進曲や応援歌のような明るい楽曲、海外の音楽に精通してテイストを盛り込んだ服部良一氏の歌謡曲が主流。そこに幼稚園の頃からピアノを学び、大学時代はジャズに傾倒し、卒業後はレコード会社で洋楽ディレクターを務めていた筒美氏が新しい音楽を送り込み始めた。作詞家・橋本淳氏にすすめられ、作曲家・すぎやまこういち氏に師事した筒美氏が生んだ、いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』は、それまでの歌謡界にはない音楽性で、たちまち国民を魅了した。

 その筒美氏に南沙織のデビュー曲を依頼。新しい音楽を作りたい旨を伝え、できたのが『17才』。その後も郷ひろみの『よろしく哀愁』、ジュディ・オングの『魅せられて』をはじめ、ヒット戦線を賑わせた数多くの作品でご一緒させていただいたが、氏との仕事は触発合戦だった。そのキャッチボールが実に心地よかった。

 また、意思を持たず、かわいいだけのアイドルをよしとせず、音楽性を重視した。歌手への歌唱指導では丁寧でわかりやすく教える優しさと、やる気を見せない歌手は見限るという厳しさを併せ持っていた。ジュディ・オングも、通常の1.5倍もの時間をかけて氏が歌唱指導しながらレコーディングをしたことで大人の歌手へと変貌した。

 筒美京平という天才的な才能は“異”の人だ。異国の異文化の音楽を取り入れる異能さは異彩を放ち、異質だが誰もが受け入れる。

『また逢う日まで』を口ずさみながら満足そうな顔をして旅立ったのではないか。

【プロフィール】
酒井政利(さかい・まさとし)/1935年、和歌山県生まれ。立教大学卒業後、松竹、日本コロムビアを経てCBS・ソニーに入社。プロデューサーとして南沙織、郷ひろみ、山口百恵、松田聖子など多くのスターを生み出す。『愛と死をみつめて』(1964年)、『魅せられて』(1979年)で日本レコード大賞を受賞するほか、受賞作多数。現在は、酒井プロデュースオフィス代表取締役として音楽プロデュース業のかたわら、次世代のプロデューサーの育成に励んでいる。

※女性セブン2020年11月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
関屋警部補を演じた原田大二郎(撮影/中庭愉生)
【放送50年特別インタビュー】原田大二郎が振り返る『Gメン\\\'75』の思い出、今だから話せる「関屋警部補が殉職した理由」 降板後も続いた丹波哲郎との良好な関係
週刊ポスト
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
麻薬密売容疑でマグダレナ・サドロ被告(30)が逮捕された(「ラブ・アイランド」HPより)
ドバイ拠点・麻薬カルテルの美しすぎるブレイン“バービー”に有罪判決、総額103億円のコカイン密売事件「マトリックス作戦」の攻防《英国史上最大の麻薬事件》
NEWSポストセブン
東京都議選の開票を見守る自民党の木原誠二選対委員長(左)と井上信治・東京都連会長=22日夜、東京・永田町の同党本部(時事通信フォト)
《都議選で歴史的大敗》今や自民党は保守じゃない、参院選に向けてウリは2万円給付だけか 支持層から「時代について行けない集団」「消費期限切れ」「金払って党員になっても意味ない」の声
NEWSポストセブン
アナウンサーのオンカジ疑惑を早めに公表したフジテレビ(イメージ)
《オンカジの”儲からない”実態》逮捕されたフジテレビPは2400万円のマイナス、280億円賭けた「バカラのカリスマ」も数千万円のマイナス 勝てない前提のイカサマか
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン