パソコンPC98シリーズの1号機「PC9801」[NEC(日本電気)提供](時事通信フォト)

パソコンPC98シリーズの1号機「PC9801」[NEC(日本電気)提供](時事通信フォト)

 岸田くんが手にしていたのは『怪奇大作戦』という特撮ドラマのレーザーディスクだ。ボックスではなく「怪奇大作戦 恐怖人間スペシャル」と題された単品売り(4話収録)だが、この中に「狂鬼人間」という、今では手に入らない作品が含まれているため当時は高額で取り引きされた。4800円のレーザーディスクが6万円から8万円くらいだっただろうか。「2度と、手に入らないかも知れない」の帯文はまさしくそのとおりで、2020年に至ってもDVDに「狂鬼人間」は収録されていない。葉月くんの自慢のコレクションだった。

 彼は本作のLD-BOXも手に入れている。回収寸前に売ってしまった店舗があったため一部が世の中に出回った。筆者の先輩ライターも手に入れて大喜び、回収の情報にもプレミアがつくとガッツポーズだった。岸田くんは本作の大ファンだし欲しかったのだろう。実際、他のレーザーディスク化されたアニメと違い「狂鬼人間」収録ソフトだけはいまもプレミア価格がついている。しかしレーザーディスクは腐っていた。永遠に腐食しないから半永久的に保存できるとされたレーザーディスクだったが、実際は腐食するし接着剤のよくないものも多い(レーザーディスクは2枚の円盤を張り合わせている)ので永遠ではない。みんな当時は永遠だと信じていたが、永遠ではなかった。永遠なんかなかった。

「でも葉月のコレクションだもんな、思い出にとっとくか」

 どうやらLD1枚ならと岸田くんが形見分けの品を決めたようだ。筆者も探さねばと大きく不揃いな箱が並ぶ棚に目を移す。こっちはパソコンゲームのコレクションだ。

「フロッピーはもっと腐ってるだろ」

 岸田くんの言葉はもっともでフロッピーディスクは磁気むき出しなのでカビに弱いし劣化も早い。それでも「まあ、思い出だから」と返して『ギャル・ウォーズ きゃぴきゃぴるん』という地球上で何人知っているであろうゲームソフトを手にする。岸田くんが笑う。

「いや違う、これは俺が貸したんだ」

 さらに笑う岸田くん。20年以上の時を経て、ようやく筆者の手元に『ギャル・ウォーズ きゃぴきゃぴるん』が戻ってきた。発売は1988年、高校時代に買った筆者のコレクションを、葉月くんが「それ隠れた名作だからやらせて」と借りたまま返さなかった、つまり「借りパク」されたゲームだ。もう1990年代でPC9801シリーズが主流だったが、葉月くんはPC98DOという互換パソコンを持っていたのでPC8801mkIISR版の本作もプレイできた。腐りの早い5インチフロッピー、読み込めるとは思わないが。

「葉月、結構借りたもん返さなかったよな、俺の貸したやつもあるかな」

 借りパクの話なのに岸田くんの声色は優しい。物を返して欲しいわけじゃない、葉月くんに貸したときの思い出を返して欲しいだけだろう、だって探す岸田くんはちょっとうれしそうだ。他にも筆者は貸しているので見つけてはピックアップする。借りパクされたCDを見つけた。これも思い出とともに返してもらおう。

「お、発動篇」

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