灰塚さんは、今没頭している「運動」には矛盾が全くないとしつつ、筆者に「注意」を促す。
「矛盾がないということは、黒か白か、いいか悪いかなんです。矛盾を受け入れるということは、問題から逃げているのと同じ。コロナだって、中国が悪いアメリカが悪い、日本政府が無能だとかいろいろ言われてますけど、矛盾だらけの話。本質を見ないといけません。誰がなんのために『ウイルス』があると騒いでいるのか。ネットを見てください、きちんと書いてあります。(米大統領の)トランプさんの再選で、真実は見えてくるはずです」
ここで「トランプさんの再選」と言うのは、彼とその支持者たちが言う「選挙は不正だった」「本当は当選している事実が隠されている」という主張を「真実」だと思っているからだ。本質を見ないと、と言いながら安直な陰謀論にしか思えないものを「真実」として訴えている今の主張こそ、玉虫色の不安定なものに見えるが、渦中にある灰塚さんにとっては、黒か白かはっきりしているようだ。だが、その学んでいる内容は、自分にとって都合の良い情報だけを選んでいることに他ならないのではないか。
灰塚さんはいつも「私は幸せ」「今が一番楽しい」と口にするが、荒唐無稽な思想や理論を疑わずに取り入れて、渡り歩く先々で利用され、消耗させられているように見える。純粋な人ほど、その人にとって純度が高いと思わせる「真実」を提示すれば、理想のために身を削ってでも尽くしてしまう。だから生活は安定せず、男性に依存したかと思えば、別の男性に生活費を渡すために夜の世界に飛び込み、今ではベテランのクラブホステスだ。一時期は生活保護を受給しながら、政治活動に没頭する日々もあった。
女性だから何かに依存しやすく搾取されやすい、と灰塚さんのケースを結論づけるのは簡単だ。しかし、理想の世界を求めて真実を探す人には男性も多い。そして男性であっても、その人生を消耗させられることには変わりがなく、共通するのは経済的な基盤を弱いままにさせられていることだ。長期間の金銭的不遇は、心身共に人を疲弊させ、判断力も弱らせる。真実だという言い訳をしているが、真実や矛盾がないこと、理想の世界にこだわるのは、袋小路にある自分の生活への不満のはけ口になっているようにも見えてくる。
灰塚さんのような不遇を、個人の問題や自己責任だと放置してよいのだろうか。純粋であるがゆえに大胆な行動もいとわない彼らは、「真実」が世界から無視されている矛盾が許せないと暴走することも十分にあり得る。たとえば、アメリカの連邦議会議事堂にトランプ大統領の支持者らが乱入した事件も、似たような構造から発生したのではないのか。貧困の固定がすすめば、日本も同じようなことが起きるのではないか。