小野寺氏が続ける。
「『花束みたいな恋をした』でも、恋愛の始まりから停滞期を演じ、冷たい態度をとるシーンがありながら、暴力を振るったりしないことはもちろん、女性の自由な生き方を阻害するようなことはありません。坂元裕二の脚本による現代的な男性像によって、このような接し方が、いまのまともな20代男子に標準装備されているのが当たり前になっていることを体現しています」
有村架純についても、パートナーに左右されることのない強い意志を見せるという点では、現代的な“等身大の女性像”を演じていると言えそうだ。
「有村架純は、愛らしい表情や姿で男性から人気を得ているのと同時に、映画やドラマで等身大の女性像を演じることが多く、女性の支持も強い俳優です。
『花束みたいな恋をした』の土井裕泰監督とは、『映画 ビリギャル』でも主演俳優として組んでいます。当時、どんどん学力がついていくギャルの役を見事に演じていましたが、今回はそのような一点突破の設定ではなく、一般的に珍しくないサブカル好き女子を演じています。同時に本作は、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』以来、坂元裕二と再び組んだ作品でもあります。近年は彼女自身、愛らしく柔和なイメージから外れるような、危うい部分を見せることが増えてきました。
WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』で素の自分を出すことにチャレンジしているように、『花束みたいな恋をした』でも、サブカル女子として典型的ながら一人の人間として確立した存在感を見せていて、よりナチュラルな演技のできる俳優になっています。情に流される古いタイプではなく、パートナーの生き方によって自分の生き方を曲げることのない、強い意志を見せるところが印象的です。菅田が演じている男の方がむしろ情にもろいのが面白いですね」(小野寺氏)
映画は2020年のとあるシーンから幕を開け、5年前の2015年に遡って物語をたどり直していく。偶然の出会いからかけがえのない時間に発展していく恋愛映画の新たな金字塔と言ってよい作品で、いわゆる三密や不要不急の外出が難しいコロナ禍の現在、見過ごされがちな“大事なもの”を思い起こさせてくれるに違いない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)