「自分の父親をはじめ、割と私、人生で、ふがいない男に出会うことが多くてですね(笑い)。なので、その理由を知りたいんです。あのときお父さんはなんでああいうことをしたんだろう、夫はなんであのとき、ああいうことをしたのかな。そういうことをしょっちゅう考えて、それが小説のタネになっていることがあります。人間を一面的に見ない練習を、子供のときからしてきたんですよね。
世間からすごく叩かれるような人でも、やっぱり何かいいところはある、そういうことも私は小説に書いていきたいです」
R–18文学賞でデビューした窪さんは、性愛をテーマに小説を書くことが多かったが、今作は幅広い層の読者が手に取る新聞小説、しかも朝刊連載ということもあって、「性愛描写は自主規制しました」という。
「母の恋愛」は、前作の『私は女になりたい』(講談社)とも共通するテーマである。
「『私は女になりたい』と『ははのれんあい』は、レコードでいうとA面とB面という感じですね。『私は〜』の主人公は、私の小説には珍しく勝ち組の女医さんで、『はは〜』の由紀子とは経済格差もすごくあります。
二人を書くことでちょうどバランスが取れたところもありますね。この本で由紀子というひとりの女性の20年ほどを書いてみて、子供を産んで育てていくなかでの女の人のリアルな変わりようを描けたんじゃないかなと思います。この時間は、なんのために生きるのか、彼女自身が見つける旅でもあったんですよね」
【プロフィール】
窪美澄(くぼ・みすみ)/1965年生まれ。フリーの編集ライターを経て、2009年「ミクマリ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。2011年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞を受賞。2012年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を受賞。2019年『トリニティ』で織田作之助賞を受賞。近著に『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『いるいないみらい』『たおやかに輪をえがいて』『私は女になりたい』などがある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2021年2月11日号