国内

松本清張は尋常小学校卒、文筆業界の学歴マウンティングを考える

評論家の呉智英氏が考える文学界の学歴とは(イメージ)

評論家の呉智英氏が考える文学界の学歴とは(イメージ)

 2021年の大学受験は、新型コロナウイルスに直撃されたこともあり、例年とは少し違うニュースも聞こえてくる。それらのニュースに触れた評論家の呉智英氏が、自慢できる「学歴」とは何か、について考察する。

 * * *
 一月十九日付朝日新聞夕刊が「鼻出しマスク受験生逮捕」を大きく報じている。十六日に行なわれた大学入学共通テストの受験生がマスクから鼻を出したまま試験に臨み、再三注意を受けたがそれに従わなかったのだ。逮捕の直接の理由は、その後会場のトイレに四時間閉じ籠ったので建造物不退去容疑だという。

 私が併読する他紙もほぼ同旨の内容だが、朝日の記事が大きかったのは、疫学の専門家による「鼻出し『感染のリスク』」の解説が付いていたからだ。容疑者の男が「これが自分の正しいマスクの着用である」と主張している(同朝刊)ためだろう。

 受験生には迷惑だったが、これも派生的なコロナ禍といえようか。

 さて、この鼻出し氏、相当変な人のようだ。現時点では四十九歳の男としか分からない。中年過ぎての大学受験というのも珍しくはあるが、それなりの理由があるのだろうか。だとすれば、鼻出しマスクぐらいに固執して受験失格の道を選ぶのが解せない。

 この事件に私が関心を持つのは、私もこの歳で再入試を考えていたからだ。私は自分の最終学歴にずっとコンプレックスを抱いていた。私の卒業した大学は、普通の就職にはまずまずのランクだが、文筆業界では有象無象の扱いだ。むしろ、司馬遼太郎が卒業した大阪外語大学蒙古語学科とか大城立裕が中退した東亜同文書院など、ニッチな大学が学歴マウンティングの頂点に立つ。そもそも大学はおろか高校・中学さえ出ていないとなると、圧勝である。推理小説界の雄、松本清張。書誌学の巨人、森銑三と柴田宵曲。いずれも尋常小学校卒だ。

 そこで私は工業高校卒、いや工業高校中退という学歴を獲得しようと考えた。入学手続きだけして翌日退学届を出せば、学費もほとんどかからない。友人の教育学者に一応相談してみると、彼は笑って、そりゃ駄目だよ、と言う。お前、何か企らんでるな、とも言う。私が高校生を煽って全学ストライキでもやらせようと企らんでいると思ったらしい。六〇年代じゃあるまいし…、私は別のことを企らんだのだが。

 私の計画を話すと、彼は「過年度生」だから入学拒否されると言った。高校は義務教育ではないので何度でも入学できるけれど、病気や転居による再入学以外、年長者の入学は通常認めないのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
川道さら
【「今日好き」で大ブレイク】20歳を迎えた川道さらが語った仕事への思い「お酒で体重増えたから毎日9~10㎞走っています」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン