さらに西ヶ谷氏は、こうした“佇まいや振る舞い”を演じることができる若手女優は「そう多くない」と続ける。
「特に人前での笑い方やお店でのオーダーの仕方。また、高級感溢れる背景での自然な佇まいを見ると、この役どころを演じられる若手女優はそう多くはなかったんだ、と気づきます。やがて夫となる人を介してとある女性と出会い、次第に自分を取り囲んでいた世界に気づき、大きな決断を下します。
岨手由貴子監督の脚本は、華子の決意を簡単に言葉にすることはしませんでした。華子がどこで大きな決断をするに至ったかは観客の想像にゆだねられています。是非終盤の華子の変化に至る門脇さんの映画的表現にご注目いただきたいと思います。泣いたり叫んだりが映画のお芝居ではないということを体感していただきたいですね」(西ヶ谷氏)
まさに門脇麦は『あのこは貴族』の主演に適任だった。昨年はNHK大河ドラマ『麒麟がくる』でヒロイン・駒役を演じて大きな注目を集めるなど、今や女優として確固とした地位を確立したとも言える。とりわけ今作では“この役割を果たすにはこの人物しかいない”と選び抜かれた他の出演者や制作スタッフたちの活躍も相まって、より一層主役としての輝きを増しているのかもしれない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)