もうひとつ、グリーン氏の指摘で興味深いのは、アメリカにとっては東アジアにおける日本と並ぶ重要な同盟国である韓国について厳しい見方をしていることだ。韓国もまた、東南アジア各国に軍事的な支援をしているものの、それは「他のアメリカの同盟国と調整することなく行われている」ため、日本のような役割は果たせていないという。その点で日本は、「同盟国を怒らせることなく」地域のハブになりつつあると評価している。
半年前の論文が、いま改めて注目されている背景には、バイデン政権の苦しい政権運営があることも忘れてはならない。コロナ対策が最優先であることはもちろんだが、その後の経済復興のために2兆ドルを超えるインフラ投資と、その財源のための国際企業への大幅な増税方針を打ち出したことで国内世論は真っ二つに割れている。「大きな政府」を目指すことに反発する国民を説得するためには、巨大な軍事費の圧縮も必要になるだろう。中国の膨張を見れば、アジア太平洋地域で軍事力を削減するわけにはいかないが、そのためのアメリカの負担はできるだけ減らしたい。その意味でも、かつては消極的だった日本のハブ化を容認しようという空気が生まれつつあるのである。
日米が安全保障で対等なパートナーになることは長期的には望ましいが、そのためには日本は地域の安全保障により大きな負担を求められ、中国ともアメリカに頼らずに対峙する覚悟が求められることになるだろう。
■佐藤則男(ニューヨーク在住ジャーナリスト)