都心でいえば、赤坂のコンビニは大きく張り紙で常習であろう万引き犯への警告状が貼られていた。対応は各コンビニでまちまちのようだ。大きな声では言えないが、昔からの近所の住人が犯人だったこともあるという。
「知り合いだとちょっと通報しづらいよね、○○さんとこの息子さんだけど、近所の店の跡取りだったりするし」
その「○○さんとこの息子さん」はそれまでも特定の作品になるとくじを引きまくっていたが、ついに金がなくなったのか景品を持っていってしまったという。
「小さなころから知ってるし、うちの息子と同い年なのにね、30過ぎてよくわかんないよ、ほんとうんざりする」
30歳過ぎのおっさんを捕まえて景品のアニメグッズを盗んだからと警察に通報するのもうんざりだし、それが近所の店の跡取りという旧知の間柄というのもげんなりだろう。映像にはバッチリ映っているが狭い下町の商店街、波風立てるのもやっかいだ。それにしても久保田さん、かなりお疲れの様子。
「そりゃコロナは堪えるよ。変な客よりそっちだよ。俺は糖尿病だけど店に出なきゃいけない。去年なんか死を覚悟したね」
フランチャイズで経営しているコンビニのほとんどはオーナーも店員をやらなければ成り立たない。不規則な生活がたたって基礎疾患をもつ店主も多いだろう。
「ビニールカーテン(コンビニレジに設置されたコロナ対策の幕)もほんとは嫌なんだよ。なんか圧迫感あるし、接客にもいろいろ面倒なんだ。あと、お釣りの手渡ししなきゃ態度が悪いって言う客もいるし、カーテン越しの上にマスクで聞き取れないから仕方なく聞き返すと文句言われる。ほんとうんざりだ」
昔は誰でも雇ったけど、いまじゃ向いてない人はやめてもらう
久保田さんの愚痴と「うんざり」は尽きない。何気ない日常、当たり前のように利用しているコンビニだが、実際に働く従業員はオーナーからアルバイトまでこのコロナ禍、必死に日本のインフラとも言えるコンビニの灯を守ってきた。「それが仕事だろ」、としたり顔の輩もいるかもしれないが、そうした仕事に私たちの生活は支えられている。エッセンシャルワーカーへの感謝ではなく「それが仕事だろ」で片付けるこうした輩こそ、このコロナ禍の社会を分断している元凶ではないか。
「みんな長いコロナ(禍)で余裕がなくなってるって、コンビニやってると一番わかるよ。生活の一部だもんね、日常だから素が出るんだろうね。だからもう、いちいちお客にあれこれ言わないし、言いたくもないよ」
そうは言っても見過ごすとつけこまれるのでは? と問いただすと、久保田さんは力なく笑った。