ごみの分別はしてくれていた(イメージ)

ごみの分別はしてくれていた(イメージ)

「そりゃ俺も昔は注意したよ。でも長くやってるとねえ……そのコーヒーだって、さっきも言ったけど『間違えました』って開き直られたらおしまいだ。それに仕返しというか、嫌がらせされることもある。俺もコンビニもここから逃げられないし、微罪だからすぐ出てきちゃうし。そういう連中のささいな嫌がらせって、地味にメンタルにくるんだよ」

 コーヒーが入ったままカップをゴミ箱に棄てる、くじの不正があると文句を言う ―― 久保田さん曰く、その辺の報告は従業員からもあり、彼ら彼女らも疲弊しているという。

「それでも仕事があるだけマシだと思うしか無いよね。外食避けて家でお弁当とか、家飲みとかのおかげでなんとかなってるし、人手不足も以前ほどじゃない」

 ずっと人手不足に悩んでいたが、このコロナ禍でシフトを減らされたフリーターや収入の減った会社員が短時間ながら応募してくれるようになった。おかげでその心配だけはなくなったそうだ。それでも、久保田さんが店に立つことなく、オーナーだけをやっていられるほどの収入はない。久保田さんは「巣ごもり需要」の話をしてくれたが、残念ながら昨年の外出自粛と時短営業により大手3社の国内コンビニ事業の利益は前年同期比25%減(2020年3~8月期)となった。需要より自粛の悪影響が上回っている。久保田さんの店は自己所有なので、その点は余裕があるのかもしれない。

「それでいて、いまじゃ仕事が増えるばっかりだ。昔は誰でもできる仕事だったし誰でも雇ったけど、いまじゃ向いてない人はやめてもらうしかない。公金とか、間違ったら大変な処理もしなくちゃいけないからね」

 思えば日本のコンビニは、日本人の日常をほぼ網羅している。公共料金から税金の徴収、宅配の受け付け、チケットや金券どころか先のくじ引きまで店員が対応する。店内はコミックや雑誌もあればコーヒーマシンに写真の現像もできる複合機、銀行のATM、ファストフードにイートインまである。この小さなショッピングモールを久保田さんは毎日休むこと無く切り盛りしている。そんな中、いちいちコーヒーの小サイズを買っといて大サイズや数十円高い銘柄をぶっこむ輩や、推しキャラが出ないと喚いたあげく勝手に持って行く中年男なんか相手にしていられないのも致し方ないということか。

「外に置くとろくなことがないから店内に設置したのに、ゴミ箱に家庭ごみどころかとんでもないものが捨てられてた。女子トイレが血まみれとか、俺の店は掃き溜めかっての」

 江戸っ子の久保田さんの口調は少々荒っぽいが、ここまで酷いと無理もない。ちなみにその「とんでもないもの」は昨年末のクリスマスに捨てられていた成人玩具だったそうだ。

「でもまあ、ちゃんとプラスチックごみに捨ててくれたから、いいかな」

 と怒りながらもひとり納得の久保田さん。その他、昨今話題のコンビニのFC問題なども久保田さんは力説してくれたが、これは本稿の趣旨ではないため省かせてもらう。コンビニオーナー、本当に大変な仕事だ。

「愚痴ばかりでごめんね、あんまり(記事に)使えないだろ」と久保田さんは謝るがそんなことはない。やはりコンビニは社会の縮図。景気や世相、このコロナ禍もダイレクトに映し続ける社会の鏡だ。それは久保田さんが繰り返すような、うんざりする、みみっちい、情けない甘ったれどもの吹き溜まりだ。そんな些細なトラブルの積み重ねのせいで、エッセンシャルワーカーの誰もが大なり小なりメンタルをやられている。

 大げさな、ただのコンビニよもやま話と思うかもしれないが、残念ながらこの間抜けな事例の数々も、翻って現代日本の、日本人の縮図である。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞評論部門奨励賞受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)、近日刊『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太に愛されたコミュニスト俳人 』(コールサック社)

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