「評価が曖昧な状態でドラフトを待ちたくなかった」
もちろん佐々木自身もプロは常に意識していたが、ある時期から大学進学に進路を切り替える。
それはコロナ禍により、出場が決まっていた3年生の春のセンバツ甲子園が中止になったことによる。
「甲子園で自分の力をアピールするとともに、全国の有力選手のプレーを見ることで、現状の自分の位置づけを確認したいと考えていたのですが、その機会がなくなったことで、評価が曖昧な状態でドラフトを待つことに疑問を感じ始めて……」
3月、センバツ中止の決定が発表されると、鍛冶舎に「大学で経験を積んでからプロを目指したいと思います」と自分の意思を伝えた。そして、鍛冶舎もその考えを支持、尊重した。鍛冶舎は言う。
「打撃練習で15mの近距離にセットした145kmの速球を初球からジャストミートできる佐々木の打撃センスなら、高卒でプロ入りしても十分結果が残せるとは思っていました。ただ、いくつか気懸かりな点もあったのは事実です」
ロングヒッター特有のスイング幅が大きい佐々木の打撃フォームは、球威のあるプロの投手に対応するためには多少の修正が必要になるかもしれない。プロの場合は監督やコーチの人数も多く、様々な形でアドバイスを受けることになるだろう。それによって、逆にバラバラになってしまう危険性もある。そうやって本来の長所を見失い苦労する選手をこれまで何人も見てきた。
それならば大学で、良い状態も悪い状態もわかっている指導者が見てチェックしてもらう中で、高校生よりもワンランク上の投手たちを相手に試合をしながら、それに対応できる打撃フォームを作っていく形のほうがリスクが少ないのでは、と考えていた。
実際に佐々木は今、大学生の投手と対戦し、「高校生でスピードガン150kmというような投手と対戦したこともありました。でも大学生や練習試合で対戦した社会人の投手の140kmのほうが速く感じるんです。ボールのキレとか、コントロールの正確さとか、初めは戸惑いました」と話している。
そして進学を決意した当時のことを振り返ってこう言う。
「ずっと高校からプロに行くイメージでやってきたし、自信がなかったわけじゃないんです。ただ、このままプロに行ったとしても、最初は絶対に苦労したはず。それなら大学でもう一度、身体と技術を磨き直して、課題を克服していって、それでも足りなければ社会人野球に進んでもいい。どんな課程でも最終的にプロに行けたらいいと考えたんです」