大規模修繕から考える「湾岸タワマンの寿命」
今回のブームで売買された湾岸中古タワマンの多くは、築10年を超えているはずだ。
「マンションには50年以上住める。場合によっては100年でも……」
鉄筋コンクリート造のマンションの寿命については諸説あり、一般的にはこのような見解が示されることが多い。私も聞かれたらそう答えている。しかし、これはあくまでも「適切なメンテナンスを行った場合」という前提条件が付く。
前述の通り、タワマンと普通のマンションは基本構造は大きく異なる。実は、タワマンの場合は戸境壁だけでなく外壁にも鉄筋コンクリートが使われていない。タワマンの外壁に使われているのはALC(軽量気泡コンクリート)パネルという建築素材。鉄筋コンクリートよりも軽くて強度もある素晴らしい素材である。
ALCパネルも工場で作られたものを現場に運び込み、職人によって嵌め込まれていく。当然ながら柱や床、サッシュとの間には接合部が生じる。タワマンは普通のマンションに比べて、外壁部の接合部がかなり多い。
接合部には防水のためにコーキング剤というものが使われる。困ったことに、コーキング剤は風雨にさらされると劣化し、そのうち防水の役割を果たさなくなる。そうなると雨水が住戸内に染み出すことになる。現に既存のタワマンで雨水漏れが生じている物件がいくつも確認されている。
これを防ぐには15年に一度くらいのペースで、コーキング剤を打ち直す補修工事を行う必要がある。普通のマンションなら足場を組んで行う外壁修繕工事でこれを行う。しかし、タワマンの場合は上層階まで足場が組めない。だいたい18階以上の外壁は屋上から作業足場やゴンドラを吊るす方式が採られる。これには時間も費用も掛かる。
タワマンの修繕積立金は、平方メートル当たりの単価が普通のマンションの2倍から3倍ないと、こういった修繕工事を行うためには足りなくなる。しかし2000年代の分譲された湾岸の中古タワマンでは、そういった事態を想定せずに修繕積立金を低く設定したままの場合が多い。これでは将来大変なことになりそうだ。
さらに悪いことに、潮風や台風の強風に晒されやすい湾岸のタワマンは、内陸部よりもコーキング剤の劣化が速まっている可能性がある。湾岸タワマンにとって15年程度に1回の外壁修繕工事は、そこに住むために必ず必要なメンテナンスになる。
初回の大規模修繕工事の費用は何とかなるだろう。30年目の2回目には、外壁以外にも高額の費用を要する配管類などの設備更新も伴う。そして3回目の45年目頃は……。
こういった現実を考えると、湾岸中古タワマンへのテレワーク移住には、困難な未来が待っている可能性も十分にある。