西さんはこう答えた。“私は正義です”とでも言っているかのような空気に一瞬全員が戸惑ったが、西さんの微かな苦笑いがその空間を収めた。良くも悪くも、西さんの度胸と根性に、僕は感銘した。
西さんが靴職人で“メシを食って”いこうとしているわけではないことは理解しているし、本業が「週刊誌記者」であることも分かっている。それでも、気づいたら僕は、西さんが靴作りを好きになる方法を考え、西さんという人間を知ろうとしていた。
靴作りにおいて、技術が上達していくことはとても素晴らしいことだが、単純に技術が身についたからといって、職人になれるわけではない。「なぜ靴を作っているのか」「どこを目指しているのか」「この時間にはどんな意味があるのか」そんな自問自答を繰り返し、精神的にも研磨されていく必要がある。今の僕にとって、西さんとの時間は、己の精神を研磨する、新たなヤスリだと感じている。
西さんが、工房の中で、ふと言った言葉を思い出した。
「優さんといる時間が増えて、撮られる側の気持ちが少し分かったような気がします」
もしかしたら、僕も彼の人生を、変え始めてしまっているのかもしれない。
■取材・文/花田優一(靴職人・タレント)