もう一点、『推しの王子様』に期待を寄せる理由は、オリジナル脚本かつ『知ってるワイフ』(フジテレビ系2021年1月~)の制作陣が再集結するということ。
『知ってるワイフ』も一見すると、ベタな物語でした。主婦が過去に戻って別の人生の道を選んでいくタイムワープもの。「ありえない」と言ってしまえば身も蓋もないトリッキーな物語を、制作陣が上手く料理して話題作に仕上げた。テンポが良く人物造形やセリフも丁寧に作り込み女性視聴者の共感を集めた。あの時主役を演じた広瀬アリスさんと今回の比嘉愛未さんに、どこか通じるものがある。「軸がブレない」「しなるような強さ」「クールな猫目」といった要素も主役の中軸にぴったりで、その意味でも期待できそう。
もう一つ手かがりがあります。今、比嘉さんが主演しているドラマ『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京系 水曜深夜0時40分)。原作は累計発行部数150万部超の同名コミック(原作・夏川ゆきの、漫画・黒沢明世)。
筋立ては昼ドラっぽいドロドロ展開で、浮気夫の秘密を追求する妻を比嘉さんが好演しています。サレ妻の悔しさや情念を描くだけならベタな話一辺倒となりそうなところ、内面を語る比嘉さんのナレーションがちょい乾いていて味を出している。浮気されたという単なる被害者意識だけではなく、若い部下に気持ちを揺さぶられたり自分の過去を振り返りもう一人の自分と対話したり。
「夫婦なんてもともと他人。愛情がなくなったただの同居人」「自分が変わる怖さを受け入れるしかない」など葛藤や哀惜も表現し、物語に奥行きとスリリングな雰囲気を加えています。
『推しの王子様』の中でも比嘉さんの持ち味である強さやしなやかさ、クールな面が上手く活かされれば、ベタなラブコメを脱しユニークな作品になりそうな気配がします。