ライフ

棋士・杉本昌隆が語る『トラとミケ』の食「五感を刺激する作品」

第26話「長閑の候」より、トラとミケの子供時代

第26話「長閑の候」より、トラとミケの子供時代

 ゆかしいトラとミケの暮らしを描く女性セブンの連載マンガ『トラとミケ』の単行本第3巻&LINEスタンプが発売になった。さらに、この夏にはアニメ化され、Twitterで配信される予定だ。そんな『トラとミケ』の魅力について、将棋棋士の杉本昌隆が語った。

 * * *
 まるで映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のネコ版。昭和の街並みが非常に細かく再現されているのと、やっぱり名古屋人としては名古屋飯がふんだんに出てくるのがうれしかった。五感を刺激される作品だなと思いました。

 ぼくは生まれた時からほぼ50年間、名古屋で暮らしています。どて煮と味噌おでんが大好きなんです。特に味噌おでんは、店のメニューにあったら必ず注文します。家庭で作ると味噌が鍋に真っ黒にこびりついて洗うのが大変だから、外で食べるんです。ちなみにぼくのイチオシは卵です。

 数ある食べ物の描写で特に心に残ったのが、第26話「長閑の候」。

 トラとミケの幼い頃の話ですが、亡き父が「ながらみ」という巻貝の塩ゆでから、つまようじでスルリと身を取り出してみせる。育ちざかりの娘たちはもりもりと食べ、父がそれを優しい顔で黙って見ているシーン。

 ここで思い出すのが、ぼくが小学6年生の時に弟子入りした板谷進九段との食事風景です。当時、トラとミケの父のように貫禄があった板谷師匠と、あの巻貝を食べたことがあるんです。師匠も、つまようじを身に刺してうまく回転させながら取り出してくれましたね。

 通い弟子だったんですが、将棋教室が夜の9時頃に終わると、師匠がまさに「トラとミケ」のような居酒屋に連れていってくれたんです。師匠はいつも「お前はどんどん強くなるんだから、飯もたくさん食わなきゃダメだ」と次々料理を注文してくれました。ぼくがエビフライを食べていると、「しっぽに栄養があるんだから、残しちゃだめだぞ」なんて教えてくれたものです。

 私も弟子の藤井聡太二冠とはよくご飯を食べに行きます。ある時、ユキさんのやっている「白樺」みたいな喫茶店に入った際、彼のクリームソーダの飲み方を何気なくアドバイスしたこともありましたね。師匠と弟子ってある意味、親子のような関係ですから、そうした細かい日常の注意も結構するんですよ。

 と、ぼくの場合は食べ物のシーンでさまざまなことを思い出したわけですが、味噌おでんをはじめ名古屋飯をまだ食べたことがないかた、ぼくはいつも、人生の半分を損していますよって思うんです。

 ぜひ『トラとミケ』を読んで、名古屋に来て本場の味を知ってもらいたいと思います。

第34話「寒夜の候」より、トラとミケ姉妹の会話が切ない

第34話「寒夜の候」より、トラとミケ姉妹の会話が切ない

【プロフィール】
杉本昌隆(すぎもと・まさたか)/棋士。1968年、名古屋市生まれ。現在も名古屋市在住で、日本将棋連盟非常勤理事を務める。弟子に、藤井聡太二冠がいる。

※女性セブン2021年7月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン