依然、新型コロナウイルスの影響が続いている中での公開となった本作。このタイミングでの公開に、どんな意味を込めたのだろうか。
上田「ワニ役の神木隆之介くんと一緒に取材を受けていた時に、いいなと思った言葉をパクります(笑い)。神木くんはこの映画を観て、『立ち止まって良いんだって思えた』と言ってくれたんです。
問題に直面した時、『前に進め』、『立ち止まんなよ』っていう言葉がよく言われるじゃないですか。でも実は、立ち止まる方が勇気がいることもあるんですよね。立ち止まらず、日々流れるように過ごしている方が楽なんだけれど、あえて立ち止まって向き合うことが大切な時もある。神木くんの言葉にはそんな意味が込められていると思ったし、ぼくも同感。コロナ禍で厳しい状況に置かれている方が、この映画を観て『少し立ち止まっても良いんだ』と思ってもらえるきっかけになれば良いなと思います」
ふくだ「この作品は、ワニくんやネズミくんといった動物キャラクターが登場人物なので、一見すごくファンタジーに見えると思うのですが、実は私たちの生活に地続きの話を描いています。ワニくんたちの世界と私たちの世界を重ねやすく、そしてできるだけ“余白”を意識して作っているので、観る方ご自身の経験によって、観終わった時の感触がかなり違う映画なんじゃないかなと思います。
みなさんがどんな風に受け取ってくださるかはまだ分からないですが、観終わった後に『私はこう受け取った』、『私はこうだった』と、家族や友達と話してもらえたら嬉しいですね」
最後に、今後も夫妻で共同監督をする予定はあるのか聞いてみた。
ふくだ「今のところ予定はないですが、私はやりたいなとは思いますね。上田さんはどうですか?(笑い)」
上田「そうですね……やりたいなとは思いますかね!(笑い)」
ふくだ「今回はアニメだったから、お互いの役割のバランスがすごく良かったところはありますね。実写で一緒にやってみたいという気持ちもあるのですが、多分実写になると上田のパワーが強くなりそうだから、そこは難しいと思ったりもするかな」
上田「はい(笑い)。そういうお話があったら嬉しいけれど、今はもう少しこの作品を届けてからかな。まだそこまで思い至ってないですね」
一大ムーブメントとなった原作を、豪華なキャストに加え、音楽は亀田誠治さん、主題歌にいきものがかりを迎えて映画化した本作。それゆえに、原作を追いかけてきた人の中には、座組みに驚いた人も多いかもしれない。しかし、作品の中で描かれているものは、誰にとっても身近で、それゆえに切実なもの。上田・ふくだ両監督の手腕により、滋味深い“邦画”として仕上がっている。
【プロフィール】
上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)/1984年生まれ。滋賀県出身。中学時代に自主映画の制作をスタート。2009年に映画製作団体PANPOKOPINAを結成し、2015年にオムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』(2018年)が口コミを中心に爆発的な評判を呼び、当初2館の公開スタートから最終的に動員数220万人を突破。社会現象とも言える大ヒットとなった。
ふくだみゆき/1987年生まれ。群馬県出身。2013年に初の監督作となる短編実写映画『マシュマロ×ぺいん』を製作、国内で複数の映画賞を受賞。2015年制作のアニメーション映画『こんぷれっくす×コンプレックス』は、毎日映画コンクールアニメーション賞を受賞。歴史ある同コンクールで、自主制作アニメーション作品として初の受賞を果たし注目を集める。
◆取材・文/阿部洋子