沖田

元ヤクザ最高幹部という過去を持つ沖田臥竜さん

 元首相ですら失言ひとつで東京五輪組織委員会の会長の職を失った。有名ミュージシャンも「いじめ自慢」をしていた過去をぶり返されて、東京五輪開会式の作曲担当を辞任。「ひとつの失敗が命取りになる社会」になったことが突きつけられた。

藤井「完全なネット社会となった現代は、『人生ゲーム』のように一歩ずつステップアップしていく人生は難しい。一度失敗したらすべてが終わり。しかも、過去に起こした間違いさえ掘り起こされて、ゲームセット。いわゆる、キャンセルカルチャーと呼ばれる事態ですが、それが行きすぎているように感じます」

沖田「私の経験やと、もともと日本の社会は疎外的ですよ。社会の枠から外れた人やアウトローに“人権”を認めないのは、自分から道を逸れたんやから自業自得ですけどね。

 ただ、そんな厳しさが、一般人にまで簡単に及ぶのがいまの時代なのかもしれません。有名人ですら一撃で終わるでしょ。もう、誰しもが、いつどこで人生の階段から転げ落ちてもおかしくないリスクを持っているわけです」

家族と仲間は“財産”

藤井「ぼくはこの小説の中に、こんな社会を生き抜くヒントがあるように思いました」

沖田「世の中って、どうしたって解決できひんことがある。特に過去の経歴はそうです。

 そうは言うても、人生を諦める必要はない。ひとつの突破口は、地味なことでも地道にコツコツ続けること。職人なら職人の仕事やし、私みたいにとにかく書き続けることでもええんやと思います。一滴一滴のしずくでも、継続すれば石でも穿つ。実直な努力があれば、周囲も信頼してくれます。一発逆転なんて、虫のいい話はないんちゃいますか。

 もう1つは、常日頃から“財産”を大切にしておく、ということです」

藤井「貯金ってことですか」

沖田「お金以上の“財産”はたくさんあります。まずは家族です。社会からはしごを外されたときに、家族ほど助けになる存在はおらんでしょう。本当にありがたい」

藤井「『ムショぼけ』の主人公にとって、出所を出迎えてくれた母親の存在が大きかったですよね」

沖田「元ヤクザが刑務所から出てきてやり直そうとしても、迎え入れて、生活再建を手伝ってくれる人なんてほとんどおらんのです。出所する受刑者の3分の1は、帰る家も頼る家族も持たへんのですよ」

藤井「現実は孤独な状況なんですね」

沖田「出所した足で役所に行って生活保護を申請。その金でワンルームを借りて生活を始める。それがほとんどちゃいますか。自業自得なんやけど、最底辺からのリスタートやから、シャバに出た喜び以上に、再び“つらくみじめな思い”をしなあかんわけですよ。

 そこにオカンがいてくれるだけで、まったく状況が違いますわね。家族はいつだって味方でいてくれることに感謝していなければなりません」

藤井「仲間もそうでしょうね。『ムショぼけ』の主人公は、仲間たちに恵まれました」

沖田「何事もひとりではできひん。自分のためやなしに、仲間のために何ができるか、それをいつも考えて実行せなあかんでしょう。いざ自分がコケたとき、見捨てずにいてくれるのはそういう仲間です。

 ただ、手を差し伸べてもらうには、真摯に努力せなあかん。本気でやってないやつ、テキトウにやっている人間からは仲間も離れていきます」

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン