岸といえば、大人気アイドルグループ・King & Princeのメンバーの一人である。これまでにも、ドラマ『仮面ティーチャー』(日本テレビ系)や『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)などで俳優業に挑んではきたものの、これらは2018年の本格的なグループ活動前であったことや、昨夏放送された『24時間テレビ43』(日本テレビ系)でメインパーソナリティを務めるなど、バラエティで目にすることの方が多かった岸だけに、俳優というよりはタレントというイメージが強くあった。特に、お笑い芸人も太鼓判を押す天然っぷりはよく話題になるほどだ。
そんな岸が、久しぶりのドラマ作品への挑戦で本格派医療ドラマへの出演を選んだというのが頼もしい。共演者である岡崎紗絵(25才)や北村匠海(23才)は岸と世代の近い存在だが、俳優としてのキャリアには大きな差がある。しかも本作は、複雑な医療現場のリアルを描いた作品であるため、それ相応の演技力が求められるが、岸はそうした経験豊富な俳優陣の中でも存在感を発揮し、上手く自身の役割を演じていたと思う。
その理由の一つとして、彼のポジショニングの上手さがあるのではないだろうかと感じた。岸が演じた深澤は、もともとは救急医という仕事に対して自信が無かった。目まぐるしい展開が続く医療の現場でアタフタとうろたえる姿を、セリフの語調や絶えず泳ぐ視線によって器用に表現していたと思う。コメディシーンにもシリアスなシーンにもナチュラルにフィットする姿は、岸の演じ手としての柔軟性の高さが感じられた。集団で活動するアイドルグループに籍を置いていることも、ここに上手く反映されたのかもしれない。
特に、気の小さな深澤の“小物感”が、最終話では完全に拭い去られていたのが印象深い。声にも表情にも鬼気迫るものがあった。しかしこれは、最終話でいきなり彼が成長したのではなく、そこに至るまでの小さなエピソードに対する岸の演技の積み重ねの結果だ。一話一話、着実に前進している深澤の姿を誰もが感じていたことだろう。岸が先輩俳優たちの中で揉まれながら発揮した“演技派”の一面を目にしている間、彼が“天然キャラ”であることを忘れていたのは、筆者だけではないはずだ。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。