ビジネス

アニメやゲーム業界「日本人は安くて助かります」その由々しき事態

2021年7月、香港で開催されたアニコム香港の様子。アジア圏で日本のアニメ、ゲームの人気は高い(AA/時事通信フォト)

2021年7月、香港で開催されたアニコム香港の様子。アジア圏で日本のアニメ、ゲームの人気は高い(AA/時事通信フォト)

「中抜き」とは、本来はビジネス用語で中間業者を使わず直接取引することを指すが、現代では中間業者や関係者のピンハネ、不当な搾取に対して使われるようになった。それがしばしば起きる労働現場のひとつにアニメやゲームなどのエンタメ、クリエイティブ業界がある。クリエイターとして正当な報酬が得られる場所を求めるのは当然で、近ごろは依頼元に金払いがよい中国企業というケースも増えてきた。これは創作に携わる者に限った話ではなく、30年間平均賃金の上がらない日本の労働者の今後にも当てはまるのではないか。俳人で著作家の日野百草氏が、中国からイラストやアニメの仕事が増えている背景と日本の事情について当事者たちに「安い日本人」の実態を聞いた。

 * * *
「日本のクリエイターはとても質が高いのに安い。もっと紹介してください」

 5年くらい前からだろうか、中国のゲームメーカーや代理店が熱心に「イラストレーターを紹介してくれ」と依頼してくるようになった。「日本人は安い」――中国人からこんな依頼をされるなんて、いまから10年前には考えられなかった。

 その10年前にあたる2011年ごろ、筆者は日本の大手ゲームメーカーと元請けの制作会社から「金は出すからイラストレーターを集めてくれ」という話をきっかけに、多くのソーシャルゲーム(以下ソシャゲ)に関わることとなった。ソシャゲがフィーチャー・フォン(いわゆるガラケー)からスマートフォンに移行する過渡期、原稿料もディレクション費も十分な額だった。彼らイラストレーターの中には大手出版社で人気漫画家になった者もいるし、いまも一線で活躍する者もいる。いずれにせよ、みなソシャゲバブルの恩恵にあずかった。

 しばらくして一部の代理店や制作会社からの遅延や未払いが起きた。2012年に消費者庁からコンプリートガチャ(コンプガチャ)に対して指導が入り、さらに2016年に表面化したガチャの確率操作問題も影響したのだろうか。「差分10パターン込みで10,000円を100人分、今月中」という誰も請けないだろう仕事も来るようになった。「ディレクション料は払えないから(イラストレーターの)原稿料から抜け」という会社もあった。当然断った。

 やがて聞いたこともない代理店やエージェントも間に入るようになった。どの業界もそうだが、いつも見ず知らずの誰かが間に入って、何もしないでお金を抜いていく。

日本人は安くて助かります

「厚塗りはとくに人気です。このクオリティで仕上げるクリエイターは(中国に)少ない」

 そんな中で増えた中国人からの依頼だったが、彼らは十分な資金と制作期間を有していた。当時の中国では油絵の具を厚く塗り重ねたような色彩の立体感がある厚塗り(美麗塗りとも)が人気だった。そのころ日本でヒットした『聖戦ケルベロス』などの影響もあったのだろう。お金はきっちり支払われた。

「それにしても安くて助かります。日本人は素晴らしい。なぜ安いのですか」

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン