上海で展示されている「実物大フリーダムガンダム立像」。海外展示は初めて(中国通信/時事通信フォト)

上海で展示されている「実物大フリーダムガンダム立像」。海外展示は初めて(中国通信/時事通信フォト)

きっちりお金をくれるなら中国だって問題ない

 筆者も経験がある。あるソシャゲの制作会社からの依頼はその内容からすればイラストレーターの原稿料が安かった。1キャラあたりの差分も多い。大手ゲーム会社の案件なのになぜかと尋ねると社長は「うちもギリギリなんです。間に2件入ってるんで」と明かした。2件とは何なのか。製作会社はゲームを企画販売し、代理店が調整し、制作会社が作り、個々のクリエイターが協力する。その2件は何をしているのか。闇が深すぎる。

「一般の人は広告代理店を悪く言いますけど代理店は大事です。中抜きが多いというのは事実でしょうが作品には関わってる。嫌な役目をしなきゃいけない人は必要です。私が言いたいのは、本当になにもしない組織や人が金を中抜きしていることです」

 そのとおり、広告代理店は目立つし何をしているか外目には分かりづらいので叩かれやすいが彼らの役割も大事、それ以上の「悪」がいることは業界に関わる誰もが知る話だ。ひと昔前、金に卑しい謎のフリープロデューサーがいた。かつて一斉を風靡した作品を手掛けたこともある男だが、彼は何もしないが常に作品に参加し、なぜか稼いで高級車を乗り回していた。知らない間に入ってきて、何もしないで金を得る。もう名前を見ないが生きていればもう年金者だろう。この手の輩、アニメに限らずゼネコンやIT回りにも珍しくない。

「私はちゃんとした金額で作品に参加できれば文句ありません。だから単価が高ければ、きっちりお金をくれるなら中国だってまったく問題ない。むしろありがたい話です」

 いま案件として高いのは中国のアニメ制作だという。冒頭のゲームイラストの話と同様に、いやそれ以上に中国は日本のハイエンドなアニメーターの技術を欲している。

「昔の中国なんて下請けで使って、こんなの勘弁してくれよーなんてボヤきながら作監修正するようなシロモノでした。それでも安いから使ってたのに、いまや日本人が安いなんてね。個々人の技術は日本のほうがずっと上なのに、おかしな話ですよね」

 中国の人件費は日本に比べればまだまだ安い、しかしそれは単純作業を中心とした工場労働者や農業・畜産従事者の話で、技術者やクリエイターといった特殊技能職の価値は中国の市場経済規模、ITを中心とした娯楽市場の肥大により大幅に上がっている。中国の技術者やクリエイターは早くから海外の仕事も念頭に置いた活動をしているので(昔は国内産業が心もとなかった事情もあるが)、中国企業からすれば欧米はもちろんアジアのIT新興国との人材の奪い合いとなる。だから実際の「作り手」に金を積む。いつの間にかガラパゴス賃金に据え置かれた日本の優秀な技術者やクリエイターは中国からみて「安い日本人」になってしまった。クールジャパンがチープジャパンなんて笑えない。

「社員として中国企業に勤めるかと言われればノーですけど、フリーランスとして日本にいて仕事を請ける限りはお金をきっちりくれて、作品に携われればどこの国だって文句ないですよ。騙されたり払われなかったりしても、それは日本も同じですから」

 確かに中国企業に勤めるというのはまだ現実的ではないが、在宅フリーで請ける限りは十分な対価で作品に取り組めるなら国は関係ない。日本のアニメーターやイラストレーターは中国でも非常にその価値を評価されている。独自の文化と土壌で培われた、世界でも希少かつ特殊なクリエイターである。ジャパニメーションを指向する中国にすればガラパゴス市場に閉ざされていた高度な職人の技術とその誠実な創作意欲を欲するのは当然だろう。

「これからも草刈り場になるでしょう。だって日本じゃ食えないんですから。私みたいなおっさんはともかく、若い子でクリエイター、ましてアニメーターを目指すなら国外はもちろん別の創作も視野に入れるべきですね。人気アニメーターになっても人気漫画家のようにビルや御殿が建つほど稼げるわけではありません。多くは普通に暮らせるだけです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン