筆者の出版社時代にお世話になったアニメのプロデューサーたちもいまや60代、70代。引退して年金者になった者や行方不明者もいるが、既得権やコネクションを持っている彼らや彼らの会社の中には先の「中抜き」で生きながらえている人もいる。製作会社や広告代理店との長年のつき合いで、申し訳ない言い方だが悪事を散々やってきた「業界ゴロ」が令和になっても同じようなことをしている。これもまた、アニメーター氏によれば数十年間の低賃金、現場に金が回らない理由のひとつだと語る。筆者も同感だが、日本の他の産業とまったく同じ構図、知らない誰かが知らないうちに間に入って掠め取っていく。
「若手でも、他人を使って中抜きしたほうが儲かるので元請け制作会社を作る人がいます。単価2100円で請け負って800円で第二原画に出すと右から左で1300円入る。枚数ありますからそれなりの金にはなります。単価は低いですが動画も同じです。でも責められないですね、仕方ないんです。本当に食べていけないですから。食べていけないのレベルが他(の産業)と比べても異常です。末端に届く頃には雀の涙です」
ある程度の予算確保は仕方ない。現場を回す上で欠かせないストックでもある。しかし問題は何もしていない組織や個人が途中で抜いていくことにある。それも作品を、現場を、個々の生活を脅かすほどに。それがこの国では30年以上続いている。その代表格がアニメ業界だ。
「パチンコに人気アニメが使われるとよく思わない人も多いですが、制作会社やアニメーターからすれば単価の高い良い仕事です。一番ダメなのが、みなさん大好きなテレビアニメです。ほんとテレビはダメですね」
彼は作画監督の経験もあり、アニメーターとしての技術は高い。この業界では貰っているほうだが、それでも聞けば驚くほど安い。そのパチンコすら「テレビアニメに比べればマシ」というだけ。個々のケースは様々ですべてに当てはまらないことは当然だし、本旨ではないため細かいアニメーター事情、アニメーター以外のアニメ関係者の単価については割愛するが、実態は大なり小なり変わらず安い。また能力が足りない、才能がないという言い訳も使われるが、それについても氏は否定的だ。
「もちろん実力主義です。それは構わない。しかし個人、せいぜいグループ程度の少人数で回す漫画や小説と違い、アニメ制作は団体戦です。監督やキャラクターデザイン、作監ばかり目立ちますが彼らだけでアニメは作れない。作業員でもある原画や動画に生活できる金が降りてこない状態で実力も何もないでしょう。単なる正当な対価の話です」
多くのスタッフが様々な持ち場を担当しているアニメ制作、アニメーターはクリエイターだが現場作業員でもある。作業員にまで優勝劣敗を強いて単価を据え置く。そうした日本のアニメ業界を救うのではと言われた黒船、海外の動画配信大手に対しても氏は厳しい。
「あれでは請けられません。私に来た話も単価はテレビアニメの最低ランクでした」
それはおかしい。海外の動画配信大手の予算はどこも潤沢、海外作品に限ればハリウッド顔負けの予算と謳っているが嘘なのか。
「いえ、日本だけ現場に降りてくる前に抜かれてるんです。それがどこで、誰かはわかりません。見当はつきますが、噂レベルですね」