1992年3月、待遇改善を訴えて銀座をデモ行進するアニメ業界関係者。約900人が参加した(時事通信フォト)

1992年3月、待遇改善を訴えて銀座をデモ行進するアニメ業界関係者。約900人が参加した(時事通信フォト)

 筆者の出版社時代にお世話になったアニメのプロデューサーたちもいまや60代、70代。引退して年金者になった者や行方不明者もいるが、既得権やコネクションを持っている彼らや彼らの会社の中には先の「中抜き」で生きながらえている人もいる。製作会社や広告代理店との長年のつき合いで、申し訳ない言い方だが悪事を散々やってきた「業界ゴロ」が令和になっても同じようなことをしている。これもまた、アニメーター氏によれば数十年間の低賃金、現場に金が回らない理由のひとつだと語る。筆者も同感だが、日本の他の産業とまったく同じ構図、知らない誰かが知らないうちに間に入って掠め取っていく。

「若手でも、他人を使って中抜きしたほうが儲かるので元請け制作会社を作る人がいます。単価2100円で請け負って800円で第二原画に出すと右から左で1300円入る。枚数ありますからそれなりの金にはなります。単価は低いですが動画も同じです。でも責められないですね、仕方ないんです。本当に食べていけないですから。食べていけないのレベルが他(の産業)と比べても異常です。末端に届く頃には雀の涙です」

 ある程度の予算確保は仕方ない。現場を回す上で欠かせないストックでもある。しかし問題は何もしていない組織や個人が途中で抜いていくことにある。それも作品を、現場を、個々の生活を脅かすほどに。それがこの国では30年以上続いている。その代表格がアニメ業界だ。

「パチンコに人気アニメが使われるとよく思わない人も多いですが、制作会社やアニメーターからすれば単価の高い良い仕事です。一番ダメなのが、みなさん大好きなテレビアニメです。ほんとテレビはダメですね」

 彼は作画監督の経験もあり、アニメーターとしての技術は高い。この業界では貰っているほうだが、それでも聞けば驚くほど安い。そのパチンコすら「テレビアニメに比べればマシ」というだけ。個々のケースは様々ですべてに当てはまらないことは当然だし、本旨ではないため細かいアニメーター事情、アニメーター以外のアニメ関係者の単価については割愛するが、実態は大なり小なり変わらず安い。また能力が足りない、才能がないという言い訳も使われるが、それについても氏は否定的だ。

「もちろん実力主義です。それは構わない。しかし個人、せいぜいグループ程度の少人数で回す漫画や小説と違い、アニメ制作は団体戦です。監督やキャラクターデザイン、作監ばかり目立ちますが彼らだけでアニメは作れない。作業員でもある原画や動画に生活できる金が降りてこない状態で実力も何もないでしょう。単なる正当な対価の話です」

 多くのスタッフが様々な持ち場を担当しているアニメ制作、アニメーターはクリエイターだが現場作業員でもある。作業員にまで優勝劣敗を強いて単価を据え置く。そうした日本のアニメ業界を救うのではと言われた黒船、海外の動画配信大手に対しても氏は厳しい。

「あれでは請けられません。私に来た話も単価はテレビアニメの最低ランクでした」

 それはおかしい。海外の動画配信大手の予算はどこも潤沢、海外作品に限ればハリウッド顔負けの予算と謳っているが嘘なのか。

「いえ、日本だけ現場に降りてくる前に抜かれてるんです。それがどこで、誰かはわかりません。見当はつきますが、噂レベルですね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン