女性は異性の「におい」に生理的嫌悪を感じる
英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院が2018年に発表した論文によると、人に嫌悪感を覚えさせる要素は6つに分類されている。
・atypical appearance(普通ではない様子)
・lesions(傷や膿などの外傷)
・sex(反倫理的、不正な性行為)
・hygiene(不衛生な様子や行為)
・food(腐敗した食べ物)
・animals(気持ち悪い動物)
これらに対する嫌悪は、いずれも人間に本能的に備わっているものであり、病気になることを予防したり、生殖パートナーを選ぶ上でリスクを回避するための機能だという。動物行動学研究家の竹内久美子さんが説明する。
「男女とも異性を外見で選ぶのは、健康な生殖パートナーを選ぶ指標になるからです。たとえば女性が、大きなイボのある初対面の男性に『気持ち悪い』と生理的嫌悪を抱いたとする。一見、ひどい女性だと思うかもしれませんが、イボは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスに感染してできることがあります。つまり、イボができる男性は免疫力が低いことを示しているともとれる。免疫力が低い男性を選ばないよう、本能で嫌悪感が働いたのです」
さらに、最も本能的な嫌悪が働くのが「におい」だ。竹内さんが続ける。
「魚類も鳥類も爬虫類も、脊椎動物はみなMHC(主要組織適合性抗原複合体)という、ウイルス、バクテリア、寄生虫などの病原体に対する免疫の型の遺伝子を持っています。MHCは複数の抗原の組み合わせから構成されていて、その組み合わせは何万通りにもなります。人間の場合、MHCではなくHLA(ヒト白血球型抗原)と呼ぶのですが、HLA型は両親から半分ずつ遺伝します。この型の重なりが多いか少ないか、すべての動物は“におい”で見分けていて、相手の好き嫌いに大きく関係します」
スイスのベルン大学で、女子学生が男子学生のシャツのにおいを嗅ぎ分ける実験が行われた。すると、自分とHLA型の重なりが多い男子学生のシャツを「くさい」と感じ、重なりが少ない男子のにおいは「好ましい」と感じることが判明した。
「年頃になった女性が父親のことを『くさい』と嫌がるのは、とても正常な反応です。もし、『くさい』と嫌がらないのであれば、そういう能力が弱いのか、父親を傷つけないためがまんしているのか、“実の子”ではない可能性がある。
なお、においで好き嫌いを判断するのは女性だけで、男性にはそういった能力はありません。女性は妊娠すると新たな生殖活動が長期間できなくなるため、慎重にならざるを得ないからです。人間社会では男性が女性を選んでいるように見えますが、じつはメスがオスを選んでいるのです」(竹内さん)
ただし、前述のベルン大学での実験では、ピルをのんでいる女性に限って真逆の結果が出たという。いいにおいの男性だと思って結婚したのに、ピルの服用をやめたら「生理的にムリ」になってしまう可能性があるので要注意だ。