「1980年代ね、私も中古のチェリー(日産のファミリーカー)を売ってグロリア(日産の高級セダン)を月賦で買ったんだ。グロリアはプリンス(日産と合併)の時代から憧れだった。それも新車だ。納車式も派手でさ、花束もらって家族で記念撮影したよ。日本に生まれてほんとよかったと思ったね」
それより以前に丸本さんは都内にマイホームも買っている。なにもかもが順風満帆、男子二人の子宝にも恵まれた。同じ日本なのに凄い話、昭和のジャパニーズドリームこそまさに高度成長期、のちのバブルだったということか。
「だから若い人が困ってるってピンと来ないんだよね、不景気とかわかるけど、同じ安月給で家庭も持てない、車も家も買えないなんて、どうしてだろうね」
団塊世代から上の方はこういう方が多い。40代、50代のみなさんの多くも経験しているかもしれない。過ごした時代が違うのだから仕方のない話だが、丸本さんもこうした無理解から息子と反目してしまった。
「次男は大学まで出したのに正社員にもなれないまんま40過ぎて無職だ。これまでも転職だらけで口ばかり達者、家から出ようって根性もない。いまも子供部屋でプラモデルやらゲームやら、わけのわからないオモチャで遊んでる。私なんかその年のころは一家の大黒柱だったのにね、理解できない」
親と子であまりに時代と価値観が違い過ぎるのもこの世代の親子の特徴だ。
「結婚して独立した長男も給料が安い、子育てに金が足りないって言うけど私はやってのけた。確かに安いけど、やってけないってこともない」
何の取り柄もない人間が生きていける国がむしろ普通では
同じ年収400万円でも1980年代と2020年代では天引きされる税金や保険、さらには消費税など大幅に違う。可処分所得は比べ物にならないほど下がっている。1990年と比べて2020年の実質賃金は88%、平均給与が30年横ばいのまま税金や物価が上がっている。中央値ならさらに悪い結果となる。ちなみに1990年の平均給与が425万2000円、2020年が433万1000円である。自民党はもちろん政権を握ったことのある日本新党、民主党ともに政府は30年間これを放置してきた。何もできなかった、とも言える。
「私は2000年代に定年を迎えたけど、最後の方はただ流れるままに仕事をしただけだ。パソコンも嫌いだからなるべく触らず若いのに任せて逃げ切った」