「事故なんだからちゃんと言って謝ればよかったんですよ」
彼女たちは少し同情的だ。思えば木下都議、2017年の初当選では39230票を集めてのトップ当選だった。都民ファの東京都議団副幹事長を務め、その気さくさと親しみやすさから地元の受けもよかったという。
「いまじゃ板橋の厄介者みたい、辞めたほうがいいと思います」
率直に話してくれたが、やはり同情はあっても議員でいることには否定的だった。この後も木下都議の事務所のあるマンション周辺まで聞けそうな区民に訪ねたが、全員「辞めて欲しい」だった。少ないサンプルとはいえ「全員」はなかなかない。
そうしてこの取材から約一週間後の11月22日、木下都議は辞職の意向を固めた。都ファもさすがにイメージダウンを蒙りかねず、特別顧問の小池東京都知事自ら会見で暗に引導を渡した形だ。当選時には党員だったわけで「もう、うちの議員じゃありませんから」は通用しなかったということだろう。
また当の木下都議、申し訳ないが無免許運転7回で起訴されていたのを隠して当選はさすがに無理だ。区民どころか国民の怒りをよそに騒動を引っ張りすぎた。議員生活だけでなく、今後の人生を考えても、ひたすら悪手を繰り返しているようにしか見えなかった。
この件は彼女の辞職で終わりかもしれないが、おかげで都議会の問題点が露呈したことも確か。体調不良を理由に議会を欠席し、都議会の召喚状も辞職勧告決議も無視、開き直れば少なくとも1年はリコールされることがない議員。伝家の宝刀、地方自治法135条における強制的な除名も議会内での事案に限るので交通事故には当てはまらない。それでも支払われてしまう報酬制度も含め、今後見直すべきだろう。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。著書『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)他。