トランプ前大統領の「中国バッシング」がここにきて炸裂(AFP=時事)

トランプ前大統領の「中国バッシング」がここにきて炸裂(AFP=時事)

 中国は2000年頃からリーバー教授に目を付け、まず中国科学院が同教授を「外籍院士」(外国人名誉会員、ノーベル賞受賞者など100人強)に任命、これを受けて武漢理工大学が法外な報酬と待遇を与えて抱え込んだ。同大学からの要請は、年に9か月程度は中国に滞在して、若い研究者を育成、同大学名義で論文を発表、特許を申請することだったという。もちろんその裏には「リーバーを通じて米国の科学技術や国家機密を盗み出す意図があった」(米司法当局)と考えるのが妥当だろう。

 しかし、中国の甘い罠にかかったアメリカの科学者は他にもいた。例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)の中国系のガン・チェン教授も中国との秘密の関係をめぐって虚偽証言したという同じような容疑で逮捕・起訴されたが、MITは弁護士費用を全額負担し、同教授は証拠不十分で事なきを得た。今回、ハーバードはリーバー教授に有給休暇を与えただけで一切支援せず、ハーバード大学化学・化学生物学部のスチュアート・シュライバー教授ら7大学41人の研究者が司法省に対し、「学問の自由と国際交流を妨害する不公正な措置で許しがたい」と共同書簡を送ったものの不発に終わっている。背景には、全米で吹き荒れる反中世論があることは明らかで、中国系研究者に頼るハーバードはさっさとトカゲのしっぽ切りをしたのだろう。その点でリーバー教授に対して同情論もあるわけだ。

 娘がリーバー教授の教え子だという元北京駐在外交官は複雑な思いをこう語っている。

「リーバー教授がやったことは確かにまずいが、罪状を見ても、国家機密を中国に漏らすようなことはしていない。外国から得た支援を報告しなかった程度で禁錮26年とは前代未聞だ。1950年代の赤狩り旋風(マッカーシズム)を彷彿させる。トランプ政権が打ち出した対中知的財産窃取対策『チャイナ・イニシアティブ』の象徴として同教授が標的にされたことは間違いない」

支持率凋落のバイデン大統領は「リベラルの庇護者」にもなれず(CNP/時事通信フォト)

支持率凋落のバイデン大統領は「リベラルの庇護者」にもなれず(CNP/時事通信フォト)

 しかし、圧倒的世論を前に、ニューヨーク・タイムズをはじめとするリベラル系メディアですらリーバー教授の肩を持たない。いわば国策捜査の生贄となった同教授は、上告しても無罪を勝ち取るのは難しいだろう。あとは、リベラルに甘いバイデン大統領の恩赦にすがるくらいしかないが、そんなことをすればバイデン政権が保守派から総攻撃を受ける。人類の命を救うナノテクノロジーの先駆者の晩年はあまりにも哀れだ。

■高濱賛(在米ジャーナリスト)

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン