国内

慶応大学に合格した中卒の元ヤクザ 波瀾万丈の人生を語る【後編】

慶應大日吉キャンパスでの入学式

慶應大日吉キャンパスでの入学式

 一昨年、44歳にして超難関私大の慶應義塾大学に合格した男性・斎藤由則氏(46)。彼の人生の歩みは実に波瀾万丈だった──。神奈川県小田原市に生まれた斎藤氏は、小学生の頃から非行に走り、中学卒業後は暴走族に加入、20歳の頃に暴力団の構成員になった。2度にわたる服役を経て、カタギになる覚悟を固める。そして“慣習”に従い、ケジメとして出刃包丁で小指を詰めた。(前後編の後編。前編はこちら

 * * *
 暴力団が許されない反社会的集団であることは疑いがない。その一方で、元組員の「更生」も、社会にとって重大な課題だ。

 斎藤氏の場合は、ゼロから人生をリスタートするため生花業を従業員に譲渡し、住み込みの新聞配達員を始めた。

「学歴なし、資格なし、入れ墨が全身にあるけど小指はなし。そんな自分でも働く場所があると信じて職を探しました」

 その後、タクシー運転手、中華料理店の見習いなどを経験した。当時、斎藤氏が住んでいた街の人々は、入れ墨姿で自転車に乗り、買い物をする斎藤氏に好奇の目を向けながらも、居酒屋で出くわすと彼の身の上話に耳を傾け親身に助言した。

 人との縁の大切さを再認識した斎藤氏は知人の助けを得ながら、観葉植物をオフィスや店舗に定期的に納品するビジネスを起業した。経営が安定すると不動産業や飲食店経営などに事業を拡げ、再び成功を収めた。

「でも、また金銭感覚がマヒして、お金が紙切れにしか見えなくなっていた。都心の超高級マンションに住み、フェラーリにも乗りました」

 だが、ここで心身の不調を来すようになる。

「事業がうまくいって燃え尽き症候群になり、お金を稼ぐことに興味がなくなったんです。何をしてもつまらなくなり、家から出なくなった。うつ状態になって夜も眠れず、苦しい日が続きました」

 その頃、ビジネスパートナーが富士登山を計画した。知人から「最近、おかしくなっているから、外に行ってきなよ」と諭されたこともあり、斎藤氏は富士山頂を目指す。

 当日、9合目まで登るも天気は芳しくなく、「ご来光は難しいかも」と落胆ムードが漂った。だが、夜明け前、山頂に着いて東の空をじっと見ると、雲と雲の隙間から太陽の光が差してきた。

「その光をずっと見ていたら、ふと涙があふれてきました。今でも何で泣いたのかわからないけど、その時に『ああ、まだ俺にはやり残したことがいっぱいあるな』と思った。それは何だろうと考えて、『そうだ、勉強だ。勉強をやってなかった』と思い立ちました」

 下山中、同行の従業員から「これから勉強するって、何を目指すんですか」と聞かれた斎藤氏は、「じゃあ、大学でも行くか」と答えた。

「僕が知っていた大学は東大と早稲田や慶應、明治くらい。その時、『そうだ慶應だ。俺は慶應に行こう』と閃きました」

 人生の新たな目標が定まった瞬間だった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン