1968年2月、成田空港判定でも。警官隊に角材を振り回す学生(時事通信フォト)

1968年2月、成田空港判定でも。警官隊に角材を振り回す学生(時事通信フォト)

 筆者はこの件を書くにあたり、成田が小規模な骨抜き空港にされ、ハブ化の阻害となった根本原因、「成田闘争」に触れずにはいられなかった。幸い、周囲に当時の活動家や運動員、多少なりとも若き日に関わった人も含め知り合いの先輩方は多い。彼もその一人である。いまは年金暮らしで趣味に興じているが、彼らはかつて成田空港の建設、そして拡大の阻止に手を貸した。「三里塚闘争」とも呼ばれるが、いまや「あれは何だったのか」と左派の多くも黒歴史化している。もうほとんど報じられることはないが、いまも数件の居住世帯と活動家が残って成田空港そのものに反対し続けている。

「50年も前の話です。最初は住民がかわいそうだ、政府は許せないって純粋な思いだったんです。最盛期には日本幻野祭とか、反体制のミュージシャンやバンドはもちろん、それを目当てに普通の若者も集まりました」

 経緯はとても長いのでごく簡単にまとめるが、千葉県の成田周辺に国際空港を計画するも一部の地元住民の反対で頓挫、紆余曲折を経て代執行で空港建設を強行する国と住民が長きに渡り衝突、左派団体の多くが住民に味方したが機動隊員3名殉職、管制塔を占拠し破壊、京成スカイライナーを放火、土地を売った農家も裏切り者として放火、あげくに内ゲバと呼ばれる仲間同士の暴力抗争の果てに、反対勢力は急速に一般国民の支持を失った。

C滑走路ができれば少しはマシになると思う

 成田空港から先に「芝山千代田」という謎の駅がポツンとあって「芝山鉄道」が成田空港と芝山千代田のみを1時間に1~3本運行しているが、この鉄道は一連の住民への補償の一環である。先の経緯からかつては車内には警察官が乗っていた。こうした結果、「不便」で「小さい」、日本の玄関口とは思えない空港になってしまった。

「なんだったんでしょうね。いまから思えばよくわからないのです。空港建設反対で機動隊の方々を殺して、それを悩んで自殺した人もいました。かと思えば警官を『討ちとった』と自慢げに語る、ただ暴れたいだけなんだろうなという連中もいて。人を殺しておいてそれはないでしょう。いつのまにかみんな参加しなくなって自分の仕事に戻ったり、就職したりしました。私も就職しました。バブルのころは忙しくて、仕事で成田空港も使いましたよ」

 なんと彼もまた現役時代は商社マン。合併でその商社は消滅したが、そんな国際貿易の仕事についたからこそ、よりいっそう空港の重要性を感じただろう。過去をあげつらいたくはないが、多くの死者と国損を積み重ねて、本当になんだったのか。

「ソ連が消滅とか、中国が市場経済になるなんて考えられない、そんな時代の話です。もちろん間違っていたと個人的には思ってますよ」

 限りがあるのでここまでとするが、日本にハブ空港がない、という歴史的規模の損失を生み出したことだけは確か。A滑走路(4000m)とB滑走路(2500m)のたった2本の滑走路でよくやっているが、おかげで離陸待ちと着陸機待ちで大渋滞、冒頭の営業マンの話に戻す。

「C滑走路ができれば少しはマシになると思いますが、いつのことなんでしょうね。海上コンテナがあてにならない現状では、空港貨物がほんと頼みの綱なんですけど、仁川みたいにもっと便が増えるとよいのですが」

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