「後日、母に謝罪したところ、商品が次々に届き『自分でもどうしていいかわからなかった』と目に涙を浮かべていました。また、どうしても孫娘に不憫な思いをさせたくないという理由から、騙されているのはないかと疑っていても、広告にあまりにも良いことが書いてあるものだから『もしかしたら』と思い買い続けてしまったと打ち明けてくれました。母は認知症などではなかったんです。私も涙が溢れました」(田上さん)
失敗したことを正直に打ち明けたり、相談したりしづらい雰囲気を母との間につくってしまった自分もよくなかった。母なら好き放題に言っても大丈夫と甘えていたのではないか。一方的に母がおかしいと決めつけていたが、素直になれないところへ追い込んだのは自分だったんだと思うと田上さんは後悔した。
ところで、前出の「カモリスト」に載ったにしても、なぜ母が何度も空き巣に狙われたのかについて、警察はさらに驚くべきことを教えてくれた。
「『カモリスト』は悪質な通販をビジネスにしているグループだけでなく、反社会勢力全体にばら撒かれていて、高額商品をいくつも購入する母親はリストの中でも『裕福』とみられていたのではないかと。そして、そのリストが空き巣グループに渡った可能性があると言われました。私がスマホをプレゼントしたり、娘のアトピーの話さえしなければ、空き巣に何度も入られるなんてことにはならなかったんです」(田上さん)
もちろん、スマホを持ったからといって、誰もが悪質商法の餌食になったり、カモリストに掲載されたあげく空き巣に入られるわけではない。だが、毎日の生活ぶりをお互いに確認できるほど近くで暮らしていなかったのに、慣れない新しい道具を無責任に渡してしまったのではないか、「たられば」を考え出したらきりがないが、どうしても過去の自分の行いを悔やんでしまうのは、家族であればなおのこと無理もない。
母の契約のほとんどは、国民生活センターなどに相談して解約したが、どうしてもキャンセルできなかった分は、田上さん自身が今も支払いを続けている。届いた商品は即ゴミ箱行き。それでも、田上さんは胸を撫で下ろしている。
「こうした被害に遭う人が、これ以上は出ないよう祈るばかり。親心や善意を踏み躙る行為で許せません。母をボケ扱いし、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」(田上さん)
高齢者や若者が、知識のなさからこうした被害に遭うことは少なくなく、本人が被害に気がついていないパターンもある。「ネットリテラシー」や消費者意識を高めて被害に遭わないようにすべき、という声もあろうが、やはり限界もある。もちろん防犯のための教育をもっと広めるのは重要だ。だが、それだけではなく、日々の生活やふれあいの中で「おかしいな」と思える身近な第三者の存在が重要である、田上さんの経験がそう教えてくれているような気がしてならない。
よその家のことだからと、おかしいなと思ってもスルーするのが普通になっている昨今だが、本当にそれでよいのか。独居高齢者が激増するとも言われている我が国の近未来。互いに細やかな目配りできる仕組みこそが、こうした被害を未然に防ぐのだ。