いつからこんなことになったのか。つらつら考えたら、結婚して行ったギリシャ・エーゲ海のシフノス島が浮かんだ。
シフノス島は池田満寿夫が監督をした『エーゲ海に捧ぐ』のロケ地になった島だけど、初めての海外旅行ではしゃいでいた私(当時26才)と元夫は、アテネの安い旅行会社が並ぶ道で店先に椅子を出して、ヒマをもてあましていたお姉さんに声をかけたんだわ。
「エーゲ海の島に行きたいんだけど、あなたの好きな島はどこ?」
無謀と言えば無謀だけど、ブルーガイドの島情報がほんの数行しかない時代のこと。加えて、一か八かはもとから“大好物”。てか、元夫とは安い飲み屋で知り合い、初デートは船橋競馬場。いま思えば、山っ気だけで結びついたふたりだったのよね(笑い)。
「これがシフノス行きの船のチケット。明日、ピレウスから出るよ。ピレウスはここ」
お姉さんはテーブルに地図を広げて、アテネから少し離れた港町にボールペンでグリグリと丸を描いた。ピレウスは映画『日曜はダメよ』の舞台になった街だ。
とにかく昼過ぎに船に乗って、半日揺られてシフノス島に着いた。白い建物に青い扉や窓、青い空。空気が乾燥しているから鼻の奥が痛い。「こんなところまで来る日本人はいないね」と言いながら、港からバスに乗り込んだら、真後ろから日本語が聞こえてきた。それが同世代のNさん夫妻との出会いだったわけ。
Nさんたちはこれからクレタ島に行く予定で、私たちはアテネに戻り、飛行機でイスタンブールに行く。スマホもポケベルもない時代、これきりのご縁だと思っていた。
1週間後、予定より何日か遅れてアテネに戻ってきた私たちは、アテネ市内観光のシメにアクロポリスの丘に登った。道に転がっている大きな大理石に気を取られながら坂道を登っていたら「ウソッ!?」。顔を上げたらNさん夫妻がいるではないの。観光を終えて下りてきたんだって。
私が離婚したり引っ越ししたりして、Nさん夫妻とのご縁はいつの間にか途絶えていたけれど、それが2年前に再びSNSで偶然つながった。まさに縁は異なもの味なものだ。
さてGWだけど、JALカードの「どこかにマイル」で北九州行きの航空券が当たったのよ。どんな“ひょん”が待っているか、久しぶりの旅行にワクワクしている。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年5月12・19日号