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本土復帰50年『ちむどんどん』では描かれない沖縄ヤクザの裏面史【後編】

本土復帰の時期が描かれている『ちむどんどん』だが、実際の当時の沖縄は、さまざまな勢力がつばぜり合いを繰り広げていた

本土復帰の時期が描かれている『ちむどんどん』だが、実際の当時の沖縄は、さまざまな勢力がつばぜり合いを繰り広げていた

 本土復帰から50年の節目に、沖縄を舞台にしたNHK朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』が放送されている。一方、沖縄では、朝ドラでは描かれない“裏面史”もある。フリーライターで『サカナとヤクザ』などの著書がある鈴木智彦氏がリポートする。(前後編の後編。前編から読む

 * * *
 那覇派の頭目は空手道場の天才少年で、スターと呼ばれた又吉世喜だ。彼も実弟にタクシー会社を経営させていた。会社は合併を繰り返し、那覇最大のタクシー会社に成長した。当時、沖縄のタクシーに乗車中は、ヤクザの悪口を言えないという笑い話もあった。

 コザ派と那覇派は、沖縄で大ブームだったビンゴゲーム遊技場の利権で揉め、沖縄ヤクザの第一次抗争がスタートする。コザはスターを旧日本軍の飛行場に連れ出し暴行するが、スターは空手の達人なので押され、棍棒や石で殴りつけ重傷を負わせた。琉球警察は両派を大量検挙して、抗争を鎮静化させるほかなかった。

『ちむどんどん』の第1話の舞台となる昭和39年には、コザ派から泡瀬派が脱会、コザ派はぎょろっとした目玉をトレードマークに、ミンタミー(目玉)と呼ばれた新城喜史を首領として山原派を立ち上げた。派閥名の通りミンタミーはやんばるの出身で、構成員もまたやんばる一帯の若者だった。

 沖縄では警察官が退職し、ヒットマンになった例さえある。山原派にはおそらく比嘉家の親族、関係者、知り合いがいただろう。やんばるは産業がない。映画監督の布川徹郎がドキュメント映画で描いたように、モトシンカカランヌー……元手の不要な仕事の筆頭がヤクザと泥棒と売春婦だ。

 一方の那覇派からも普天間派が離脱した。4組織がにらみ合う一触即発の中、前述した山口組の殺し屋が、那覇派のスターを狙って撃った。スターはまたも一命を取り留め、不死身と呼ばれるようになる。その後、土佐犬の散歩中に撃たれて死ぬが、強者の慢心があったはずだ。

 銃器を使い始めると限度がなかった。米軍基地の不良兵が、拳銃やカービン銃、手榴弾を横流しするからだ。マシンガンさえ格安で手に入る。拳銃より日本刀の方が入手困難だった。日本刀の代わりとして車のサスペンションを加工して刃を付けた。サビだらけの模造刀は名刀・破傷風と称された。

 度重なる抗争の中、普天間派のトップが銃殺されて解散すると、沖縄に新たな外敵が現れた。本土最大の暴力団、山口組が進出を狙っていた。

 暢子が高校を卒業して上京するのは、沖縄が本土復帰した昭和47(1972)年である。その前年、山口組の小田秀臣が復帰前の沖縄を訪れている。当時、山口組は山口組時報という会報誌を発行していた。5月号の表紙は守礼門の前に置かれた山口組旗で、沖縄右翼の大物である宜保俊夫の談話が掲載された。宜保の肩書きは「三代目山口組内東亜友愛事業組合理事沖縄支部長」になっている。

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