そう話すのは、廃棄予定食品だけを売る『iiMaquet』の代表・山中善昭さん。全身ブラックのスタイリッシュな出立ちで威風堂々としながらも、物腰は柔らかい。それもそのはず、山中さんは元百貨店マン。外商という、百貨店の売り上げの6割を占めている上得意客を担当する部署に長年従事してきた接客のプロでもある。
「西武百貨店に就職し、妻とも職場結婚です。16年間勤め、独立しました。バブル真っ只中の世代ゆえか(笑い)、モノが好きだし小売りも好き。特に本が好きだったので、妻と一緒にインターネットでの中古本販売を始めました。
最初は面白いようにうまくいって、本だけでなくCDやDVD、家電、食品、ベビー用品と、扱う商品も従業員も増えていったんです。でも競合会社が増えたことで仕入れが難しくなり、事業も傾いてしまった。それが50才のときでした」(山中さん・以下同)
破産寸前まで追い込まれたが、従業員が次々に辞めていったことで事業は踏みとどまった。夫婦ふたりで借金も返済できたが、今度は大きな無力感が山中さんを襲った。
「社会貢献をしてこそ企業価値があると考えていたので、これまでもカンボジアやネパールなどに図書室を寄贈していたんです。東日本大震災のときもミニ図書館を13か所に設置して回りましたし。
でも違うな、と。儲かったお金で社会貢献するのではなく、もっと直接的に社会問題を解決する事業じゃないと続かないなと。そんなときに知人に『もったいないからなんとかしてほしい』と声をかけられたのが、食品ロスをなくそうといういまの試みでした」
大量生産、大量消費の世界から180度の転身だった。
メーカーや企業にも意識変革を期待
これだ!と神の啓示にも似た確信を得て、山中さんは2トントラックを借り、地元・滋賀県から上京。居酒屋やレストラン経営者に営業をかけ、たったひとりで挑戦を始めた。ただそれが驚くほどうまくいかなかったという。
「2tトラックの10分の1しか売れないことが続いて、売れないものは捨てにいっていました。もともと企業がお金を払って処分するところを、こちらはお金を払って受け取るのに、売り上げはほとんどない。しかも毎日深夜12時まで捨てる作業をして、また朝方から引き取りにいく。おれは何をやっているんだろうと思いました」
転機が訪れたのはその半年後。見るに見かねたあるレストランのオーナーが「うちの庭で一般消費者向けに売ったらどう?」と声をかけてくれたのがきっかけで週2〜3回マルシェを行い、女性客を中心に評判を呼ぶようになった。
「オープンから4年。社会の風潮がずいぶん変わってきた実感がありますが、メーカーや小売企業からするとこうした廃棄予定の食品を売るビジネスはまだまだ異端。これからは『iiMaquet』に卸すことがSDGsへの取り組みと周知されるくらい、ぼくらも頑張りたいし、意識が進んでいけばと願います」