野宮はその後、尾道水道を泳いで渡った。向島を脱出した理由としては、島の人たちへの慮りがあったそうだ。
《毎日のニュースで、向島の方々が、橋の検問などでとても迷惑や不安を与えていたことが、見ていて辛かった》
幸運にも海を渡りきり、尾道市に上陸。盗んだバイクで広島駅にたどり着き、付近のネットカフェを退店したところで逮捕された。脱走してから23日後のことだった。
意外にも、野宮は向島の人々に心配されていたという。
《あの人は悪い人じゃないよ。元気にしとるんかしら》
《そんなん隠れとってもしゃあないから、出てきたらご飯でも食べさせてあげるのに、って皆で話してました》
《ここにおったのは、住み心地がいいからやね。犯人が見てもわかるんじゃ。いいとこじゃけね。あはは》
高橋さんが話を聞いた住民のなかには、野宮のことを下の名前で呼ぶほど親近感を覚えていた人もいるそうだ。
「いまでも野宮を案じる人もいて驚きました。尾道水道を泳いで渡ったことを褒めた人もいたくらいです。向島の人たちの間には、島ならではの“連帯”があるのかもしれません。相手の素性が何であれ、困っている人には手を差し伸べたいと思う、優しい地域性があるのかもしれませんね」
※女性セブン2022年6月23日号