在留カードには有効期限がある。2012年7月から導入された在留カードの見本[法務省入国管理局提供](時事通信フォト)
「捜査員がその外国人の在日大使館に問い合わせると、今回の被害者の場合も数種類の書類に加え、翻訳した書類が必要なことがわかった。しかし荼毘にふすのは翌日、移送するのは翌々日。困った捜査員らは移送に慣れた葬儀会社に問い合わせた。すると、そうした書類を用意せず、火葬した証明書だけで帰国させれば、現地での手続きが長引き母国に到着後、遺骨が自宅で待つ家族の元に帰れるのはいつになるのかわからないという答えが返ってきたんだ。かといって、捜査員らにいくつもの書類の準備をする時間はない。彼らはそれを葬儀会社に依頼した」と捜査関係者はいう。それはもちろん公費からではなかった。彼らのポケットマネーからだった。
「さすがに遺体を帰国させる費用をカンパで賄うことはできない。できても遺骨だけだ」と、ある警察官は話す。葬儀会社によると、遺体の移送にかかる運賃は、割引チケットというわけにはいかない。飛行機代は通常、ファーストクラスの料金に匹敵するという。1つのコンテナに遺体を1つだけ積むからだ。さらに最貧国などの場合、自国の通貨による料金と、日本円の料金には開きがある。それを自己負担で賄うのは、遺族にとって並大抵のことではないだろう。
宗教による違いに留意する必要がある
遺骨で帰国させる場合も、感覚や意識が国によって異なること、宗教によって葬儀方法が異なることに留意しなければならないと、葬儀会社の担当者は話す。「骨壷に納められたお骨でさえ、日本と欧米では扱い方が違う。欧米人がお骨だと思っているものは、一般的にさらさらのパウダー状になったもの。そのため海や山に撒く散骨という習慣が古くから存在する。彼らには、日本のようにあちこちの部位が形になったままの骨が、そのまま骨壷に入っていることなど想像できない。そのため必要があれば、特殊な機械で遺骨を粉砕して灰にして渡す」という。
「亡くなった外国人が信仰している宗教が仏教やキリスト教、ヒンズー教だと、遺体の状態によってそのまま移送ができなければ、火葬にして遺骨として移送する。だが、ユダヤ教やイスラム教は土葬と決められており、火葬は絶対できない。この2つの宗教では、遺体を火葬することは死者を侮辱することであり、地獄の炎で焼かれて魂を地獄に落とすことを意味するらしい。死者が復活するとする教義があるため、遺体を焼いてしまえば、復活した時に必要な身体がなくなってしまうと考えている。火葬するにしても宗教に注意しなければ、問題になる」とも葬儀会社の担当者は語る。
今回の外国人の場合、火葬するには問題がなかったという。「どういう理由にしろ、日本で亡くなってしまった被害者を、一刻も早く家族のもとに帰してあげたい」捜査員らはそう思い、カンパをしたお金で葬儀会社に手続きを依頼したという。葬儀会社によって、必要な証明書は翻訳され、大使館などで手続きが行われた。遺骨は作成された書類とともに、無事に母国に帰国し、家族のもとに帰っていったという。
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