大学病院の若手医師は薄給で疲労困憊
現実に、大病院での診察を希望する声は多い。都内在住の宮本千賀子さん(53才・仮名)が語る。
「昔から『3時間待ちの3分診療』といわれるけど、やっぱりどれだけ待たされたとしても大きくて有名な病院は安心できます。かかりつけ医を選ぶなら、できるだけ大きな病院にしたいですね」
だが、医療の世界においては大が小を兼ねるとは必ずしも言えない。
「地方の大病院は経営がうまくいっているので問題ありません。注意すべきは東京にある大病院です」
そう指摘するのは上さん。
「特に大学病院は医師の卵を育てる必要があり、実習をするために複数の科を持ちますが、小児科や産科などは赤字になりやすい。民間病院なら赤字の診療科を廃止できますが、大学病院はすべての科の看板を下ろすわけにはいかず、赤字部門が病院の経営を圧迫します。
大学病院は費用を切り詰めるため、給料を下げるしかなく、月10万円しかもらっていない若い医師はめずらしくない。そうした若手は『外勤』のアルバイトをこなすので本職の大学病院でフラフラになって診療が雑になることもあります」(上さん・以下同)
それらの病院は退職者が続出し、せっかくかかりつけ医が見つかったのにいなくなってしまうこともある。また、残された医師が無理を重ねて医療事故が起きるリスクも指摘される。大学病院の経営悪化は「無駄な手術の増加」という新たなリスクも招く。
「病院の経営を考えると、健康保険組合に多額の診療報酬を請求できる手術は非常に利益が大きい。しかも外科医は経験アップのため執刀数を増やしたいので、無理な手術をしたがる病院が出てきます。例えば、専門病院なら経過観察になるはずの進行の遅い前立腺がんも、大学病院では『即手術』となる可能性がある。不必要な手術が行われると患者のQOLが下がる恐れがあります」