タッグを組む千葉氏(左)は、PL学園「最後のコーチ」を務めた(筆者撮影)

タッグを組む千葉氏(左)は、PL学園「最後のコーチ」を務めた(筆者撮影)

横浜高校を去った経緯

 春3度、夏2度の全国制覇を誇る横浜において、甲子園通算51勝(22敗)の渡辺元智氏のあとを継いで2015年に監督となった平田氏は、全国随一の激戦区・神奈川の夏を3年連続で勝ち抜くなど、順調な船出といえた。

「野球部を低迷させてはいけないという強い思いがありました。横浜は伝統的に、守り勝つ野球を標榜してきましたが、甲子園で勝つということを考えたら、打力を強化しなければならないという私なりの考えもあった。そこで、ランニングの量を減らしてトレーニングを増やすなど、大きく方針を転換したんです。お叱りを受けることもありましたが、神奈川では夏3連覇を果たすことができ、良い方向に向かっていた。今後3年から4年の間には日本一に、というビジョンでやっていた。ところが指導の道半ばで突然、監督を辞めることになりました」

 2019年9月、当時の部長のパワハラ指導が神奈川新聞のスクープによって発覚。同時に、平田氏の暴言も問題視され、部長と共に学校から監督を解任された。平田氏が指摘されたのは、ひとりの選手に対するある言動だった。

 プロも注目するような選手が、午前中の練習中に一塁への全力疾走を怠り、平田氏は二度ほど注意した。昼食を挟んで午後になり、今度はその選手が送りバントを二度失敗。失敗は誰にでもあることだ。失敗したあと、技術の改善に努めようとしない姿勢を平田氏は見過ごせなかった。

「これは一度、きつく叱らないとチームのためにも、本人のためにもならない。そう思いました」

 部長やほかの選手が見守る中で、平田氏は選手の襟首を掴み、

「どうして一生懸命にプレーしないんだ」

 と感情を露わにして厳しく怒った。

 その一方で、夜には当該選手を寮の部屋に呼び、1年生の頃から3年生を差し置き背番号を与えてきた理由をとうとうと語り、部員の前で叱責した理由をあらためて口にした。わだかまりはないと考えていた。

 ところが、グラウンドでの平田氏の言動が表沙汰となり、部長のパワハラとあわせて高野連に報告されると2カ月間の謹慎処分に。それまで学校の決定に従ってきた平田氏も受け入れ、時間が経過すれば指導の現場に復帰するつもりだった。だが、2020年春からの共学化を控えていた横浜は、部長と共に平田氏を解任するという決定を下す。

 平田氏は学校の決定に抗おうとしたが聞き入れられず、2020年3月に静かに学校を去ることを決めた。高校野球の指導に戻りたい──そのためには喧嘩別れするよりは、穏便に自ら辞したほうが結果的に早く復帰できるのではないか。そう考えたのだ。

「この逆風の中で、自らの主張を口にしたところで、火に油を注ぐだけでしょう」

 平田氏にも煮え切らない思いがあるはずだ。だが、恨み節は口にしない。横浜の監督時代の平田氏はというと、記者を前に多くを語らず、どこか「壁」があるような印象を受けていた。それは名将のあとを受けて名門を率いる重責でもあった。

「余裕がなかったんです。すごく注目されて、良いことよりも、(自分に対する)悪口のほうが耳に入ってくるものじゃないですか。だから自ら閉ざそうとした。失礼な態度でしたし、申し訳なかったですけど、そうならざるを得なかった。監督の器じゃなかったんですね……」

 2019年秋から、雌伏の時を過ごしていた。横浜時代の教え子の誘いに乗って、中学球児を指導する様子をYouTubeで流したりもした。

 そして、昨年12月、思いも寄らぬ話が舞い込む。2023年より彩星工科と校名を変更する村野工業の監督就任の依頼だった。

後編に続く)

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