国際情報

「ベトナム戦時民間人虐殺」で韓国政府を提訴したベトナム人女性の決意「亡くなった人の魂を背負い戦う」

ベトナム戦争中、韓国軍による作戦で母を殺されたグエン・ティ・タンさん(2015年、写真/村山康文)

ベトナム戦争中、韓国軍による作戦で母を殺されたグエン・ティ・タンさん(2015年、写真/村山康文)

 韓国社会で長らく“歴史のタブー”とされてきたベトナム戦争当時の事件が、にわかに動き出そうとしている。8月上旬、「戦争中の民間人虐殺の責任がある韓国政府は3000万ウォンを賠償せよ」と韓国政府を訴えたベトナム人女性、グエン・ティ・タンさん(62歳)のおじが、韓国・ソウル中央地裁の証言台に立った。おじは「望遠鏡で、韓国軍の軍人が村の住民数十人を殺害する姿を目撃した」などと証言。タンさんが遭遇した事件とは何だったのか。なぜ、50年以上前の事件が韓国の裁判所で裁かれようとしているのか。

 ベトナム戦争中に起きた民間人殺害事件について10年以上にわたり取材し続けるフォトジャーナリストの村山康文氏は、かつてタンさんに直接会い、こんな証言を聞いたという。

「1968年2月のある朝、当時7歳だったタンさんはベトナム中部のフォンニ村で事件に遭いました。朝食後、砲声が聞こえたので家族や親戚、近所の人らと自宅内の避難壕に身を隠していたところを、村に押し入ってきた韓国軍兵士に見つかったといいます。

 兵士らは手榴弾を片手に『出てこい!』と手招きし、それに怯えた姉が最初に外に出ると、その場で撃ち殺されるのを目にしたそうです。避難壕には家族や親戚ら7人が潜んでいましたが、結局、タンさんと兄の2人だけが助かり、5人がその場で殺された。タンさんは左脇腹を撃たれて意識朦朧となり、その場に倒れました。傷跡は、今もタンさんの脇腹に大きく残っています」

タンさんの脇腹には当時の傷跡が(2015年、写真/村山康文)

タンさんの脇腹には大きな傷跡が残る(2015年、写真/村山康文)

 やがて意識が戻ったタンさんは、命からがら逃げ延びたという。村山氏が続ける。

「タンさんは、『脇腹の傷からはみ出た腸を手で押し込みながら近所の家に逃げ込んだ』『気付いたら、腹と尻を撃たれて重傷を負った兄と一緒だった』と語っていました。

 そして銃声や爆音が過ぎ去った後、母を捜しに戸外に出たタンさんが目にしたのは、広場や小道の至る所に死体が転がる地獄絵図。タンさんの母親は既に殺されていて、後日、村内にできた死体の山のなかから見つかったそうです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン