国内

ウクライナ避難民の姉弟が山谷に辿り着くまで 開戦から半年、10世帯以上が住人に

ウクライナの首都キーウ出身のヴィクトリア・ビドゥナさん

ウクライナの首都・キーウ出身のヴィクトリア・ビドゥナさん

 ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎた。激しい戦闘が今なお続いているが、日本国内の報道は減っている。ウクライナからの避難民が、すぐそばにいるのに──。東京・山谷にたどりついたウクライナ難民の今について、ノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする。

 * * *
 ブロンドヘアーを束ねた若い外国人女性が、ハーフパンツからすらりと伸びた足で颯爽と歩く。カメラのレンズを向けると微笑を浮かべ、周囲の高齢者たちは「何事か?」とこちらを一瞥してくる。かつては「ドヤ街」と呼ばれたここ東京・山谷地域に宿泊する外国人観光客は珍しくなくなったとはいえ、彼女が戦火のウクライナから逃れてきた避難民だとは知るまい。

 うだるような暑さとなったある夏の日、ウクライナの首都キーウ出身のヴィクトリア・ビドゥナさん(21)は、山谷のスーパーで夕食の買い出しをしていた。手にしたのは、握り寿司10貫入り約1000円のパックだ。

「日本食は大好きです。家に紅茶がなくなったので、それも買いに来ました。ここは夜9時になると値引きされるのも知っていますよ!」

 そう流暢な日本語で話すヴィクトリアさんは、買い物を済ませると、近くの都営住宅に帰宅した。部屋では弟のアルテム君(17)との2人暮らしだ。住宅には現在、ウクライナの避難民10数組が生活をしている。

 近くの路上では真っ昼間から男たちの酒盛りが開かれ、公園に並ぶテントでは路上生活者たちが寝泊まりする。山谷になぜ、ウクライナの避難民が集団移住しているのか。

 避難民を日本政府が受け入れ始めたのは3月上旬。出入国在留管理庁によると、これまでの避難民入国者数は8月21日現在、1775人に上る。その大半が女性たちだ。

 ポーランドやルーマニアなどウクライナの近隣諸国ならまだしも、飛行時間にして10時間は軽く超える日本は遠く、言葉の壁や異文化への適応など生活には困難も生じるはずだ。しかし、彼女たちからそうした本音はあまり聞こえてこない。ある在日ウクライナ人が明かす。

「言葉の問題など困っている避難民もいますが、日本政府から支援をしてもらっているという負い目があるので、文句を言いにくいのです」

 同じように母国を逃れたアフガニスタンやミャンマーの難民などと比べ、ウクライナの避難民だけが「優遇」されているのではないか、という声も関係しているのだろう。

 3月下旬から5月中旬まで、ウクライナで50日間にわたる取材を終えた私は、日本に帰国後に避難民の取材を開始した。すると親族や関係者から、こんな実情が寄せられた。

「高齢の母が来日しましたが、日本語ができないので買い物にも行けず、テレビも見られません。家族は日中、皆出かけてしまうので、1人で寂しい思いをさせています」

「何らかのトラブルが起きて身元引受人の家から避難民が失踪してしまいました」

 さらに取材を続けていく過程で出会ったのが、ヴィクトリアさんだった。

関連記事

トピックス

デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン
維新に新たな公金還流疑惑(左から吉村洋文・代表、藤田文武・共同代表/時事通信フォト)
【スクープ!新たな公金還流疑惑】藤田文武・共同代表ほか「維新の会」議員が党広報局長の“身内のデザイン会社”に約948万円を支出、うち約310万円が公金 党本部は「還流にはあたらない」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《ほっそりスタイルに》“ラブホ通い詰め”報道の前橋・小川晶市長のSNSに“異変”…支援団体幹部は「俺はこれから逆襲すべきだと思ってる」
NEWSポストセブン
東京・国立駅
《積水10億円解体マンションがついに更地に》現場責任者が“涙ながらの謝罪行脚” 解体の裏側と住民たちの本音「いつできるんだろうね」と楽しみにしていたくらい
NEWSポストセブン
今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志容疑者、14年前”無名”の取材者として会見に姿を見せていた「変わった人が来るらしい」と噂に マイクを持って語ったこと
NEWSポストセブン