都心のど真ん中で半グレたちが大暴れした。東京・池袋で起きた「チャイニーズドラゴン」の乱闘事件は、暴力団排除の進む日本社会で、いまなお無法者たちがのさばる現実を物語る。チャイニーズドラゴンとは警察側の呼称で、その源流は1980年代に中国残留邦人2世、3世を中心に結成された不良グループ「怒羅権(ドラゴン)」にある。カタギも組員も関係なく手にかける最恐の集団は、どこへ向かうのか。【前後編の後編。前編から読む】
1990年代以降、日本人も加わって組織が拡大したドラゴンは、暴行傷害、覚せい剤密輸、拳銃所持、暴力団襲撃など各地で暴れ回り、赤羽や池袋、府中や八王子などに次々と系列のグループができた。全盛期のメンバーは800人を超えていたと言われている。
「勝手にドラゴンのメンバーを名乗っている不良もいるし、警察も中国人の犯罪はすぐにドラゴンと結びつけがちで、どこまでが本当のメンバーなのかは不明瞭です。ただ、不良にとっても捜査員にとっても、それだけこの名前に重みがあるということでしょう」(暴力団に詳しいライター・鈴木智彦氏)
ドラゴンの特徴は、息をするように人を刺す点だ。鈴木氏が続ける。
「相手が暴力団でも関係ない。敵が素手だろうと、迷いなく刃物を突き立てます。しかもその暴力は組織立っているわけではない。暴力団のようなタテ社会ではなくヨコの繋がりで成り立っており、統制も取れていません。各地のグループ同士にも上下関係がなく、各々がやりたい放題なので歯止めが利かないのです。
また、彼らにはヤクザの任侠道のような建前がない。シノギのタブーもないので金のためなら何でもやる怖さがある。割に合うなら殺しも躊躇がない。くだらないメンツにはこだわらずドライですが、連帯感は強くプライドを踏みにじられたら報復は苛烈で執拗です」
2011年、文京区でドラゴンのメンバーから「肩が触れた」と因縁を付けられた男性2人がパン切りナイフで刺され、意識不明の重体に。同年、錦糸町では住吉会系組員と口論になったドラゴンのメンバーが中華料理店から持ち出した包丁で組員の耳を切り落としている。
「2014年にも六本木の飲食店で、トラブルになった相手の背中にナイフを突き刺す事件が起きました」(全国紙記者)
数多の事件のなかで警視庁を震撼させたのが、2014年に赤羽で起きた山口組系組員との乱闘事件だった。
深夜の路上で、山口組系3次団体の幹部ら4人の乗る車にクラクションを鳴らされたドラゴンメンバー6人が激昂。組員に暴行を加え、重さ8kgの立て看板を頭部に叩きつけた。幹部は頭蓋骨骨折など全治6か月の重傷で、他の3人も頭部打撲の怪我を負った。
この赤羽乱闘事件は、日本最大の指定暴力団・山口組にさえ牙を剥くドラゴンの凶暴性を浮き彫りにした。
別の全国紙記者が語る。
「赤羽の事件では、現場から逃走したメンバーの大半は逮捕されましたが、ドラゴンは往々にして刑務所内で人脈を培い、出所後にその人脈や知恵を活かして再び犯罪に走る。刑期を終えた時に更生しているケースは希です」