法律は犯罪の成立要件を厳密に定義している。何がアウトでどうしたらセーフか、その基準を過去の判例が規定し担保する。工藤會ほど事件の場数を踏んだ組織はない。何度も裁判を戦い、法律上、上層部を罪に問えない襲撃ノウハウを蓄積していたのかもしれない。
〈野村被告に気落ちした様子はなく、4事件について改めて「無実です。先生、本当に知らないんですよ。私は頑張ります」と話していたという〉(毎日新聞2021年8月26日付)
今年7月、工藤會は弁護団全員を解任している。
世間の注目を集めながら、実に9年も停滞していた王将社長殺害事件が、急遽、進展した背景にはこの死刑判決があったろう。この事件に再び死刑判決が出る可能性もある。
「今回の事件も田中容疑者が自白するとは思えません。京都府警も福岡県警も状況証拠は積み上げているはずなので死刑判決に続く第2弾となる可能性はある。それに新しい証拠……隠し球があるかもしれない。たとえば送迎役の組員や親交者などから新証言をとったかもしれない。田中容疑者は2008年に建設会社である大林組の車両を銃撃し、実刑を打たれています。多くの石田組関係者は起訴猶予になったが、福岡県警は人間関係を保っているはず」(藪氏)
死刑判決後、工藤會の拠点が立て続けに撤去された。野村総裁の出身母体である田中組本部や関連事務所も更地となっている。工藤會は確実に弱体化している。これまでなら絶対に喋らなかった組員らが、なんらかの供述をしても不思議ではない。
(後編に続く)
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など
※週刊ポスト2022年11月18・25日号