3つめは、殺さなかったことについてである。昭和の頃ならヒットマンたちは相手を確実に殺傷するため大型拳銃を使い、ギリギリまで相手に近づいて銃撃した。現在、ボディガードが拳銃を持つと親分が逮捕されるので警備担当は丸腰だが、かつては襲撃が予想されると拳銃を携帯して外出した。多数のボディガードがいる中に突っ込んだのだ。昔のヤクザなら、襲われた側も襲った側も銃撃戦の末に合い果てている。山口組は抗争の繰り返しで組織を巨大化させたが、前述した2020年の池田組若頭銃撃事件では、小口径の22口径が使われ、若頭は一命を取り留めた。

 実行犯の裁判は求刑が18年、懲役16年の判決だった。殺せば確実に無期だから雲泥の差である。今回は拳銃すら使わなかった。一般人を「殺すぞ」とうなり飛ばし、時にさらってぶっ殺しても、同業者相手だと殺さぬよう気遣い、長い懲役を回避して若い衆の負担を減らそうとする。令和の暴力団にも“コンプライアンスのようなもの”があるのかもしれない。

 実際、山口組の分裂抗争がだらだらと続き終わりが見えないのは、当事者が殺しを躊躇するからだろう。組員にも自分が殺されるかもしれないという緊張感は一切ない。抗争になったばかりの頃、テレビニュースがしきりに山口組分裂抗争を報道したが、組事務所に出入りする幹部をガードする防弾の楯が、反対側を向いていたこともあった。抗争中でも、大多数の幹部は生きるか死ぬかの切迫感とは無縁で、離脱派の神戸山口組旗揚げメンバーたちは離合集散を繰り返している。にもかかわらず、六代目山口組はもはや呉越同舟で連携しているだけの、結束力のない圧倒的少数連合を潰せない。

 以前は数が暴力団の強さだった。喧嘩になればよってたかってあちこちの組織が襲いかかり、事件を頻発させて圧倒した。だが現在では迂闊に動くと上層部が引っ張られてしまう。殺せば無期懲役は避けられず、暴力団としての未来は終わる。よしんば相手が死なず、15年程度で娑婆に復帰しても、その時組織が残っているか分からない。親分や組織のためにそこまでの滅私奉公は出来ない。金をくれると約束されても、ヤクザ社会には約束を反故にされ、騙された若い衆の話ばかりなので信用できない。

戦後、神戸のローカル組織はあちこちで殺しを繰り返し、全国侵攻を続けてマンモス組織になった。だが、もはや大所帯のメリットは薄く、山口組というだけで取り締まりもきつい。山口組は自らの分裂抗争で、巨大組織の脆さを証明している。巨躯がものをいった時代は終焉しつつある。

 

関係者が撮影した事件直後の理髪店内の様子。倒れている男を警察官らが取り囲む

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池田組の本部事務所。異様な雰囲気に包まれている

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