確かに、この地域周辺も多くの自動車関連会社や工場がある。政府および財務省は日本のドライバー、マイカーを「庶民のくせに贅沢」と敵視、侮蔑しているとしか思えない。かつて日本には贅沢税とも呼ばれ「奢侈税」とみなされていた物品税というものがあった。1989年の消費税導入の際に廃止されたはずだが、逆にガソリン税など「二重課税」となってしまった。
走行距離税を導入するならまず自動車重量税の廃止とガソリンの二重課税の是正をしてからの話だろう。そもそも自動車重量税は廃止を前提とした暫定措置として約2.5倍という特例税率だったはずが、2010年度の税制改革で謎の「当分の間税率」として存続した。ガソリンに至っては小売価格の約4割が税金である。それも揮発油税及び地方揮発油税、石油石炭に消費税が上乗せされる。これが悪名高い二重課税「Tax on Tax」というやつだ。
走れば走るほど利益がなくなる
ようやくバスが来て、駅からバスで30分ほどのショッピングモールに着く。本当に車社会だ。バスは中高生にごく一部の高齢者しか乗っておらず少々恥ずかしい。筆者の生まれ故郷(千葉県野田市)もそうだったが、こういった地方で成人男性が公共機関とか、自転車(とくにママチャリ)とか使うのはちょっと恥ずかしいことで、ときに「何かあるんじゃないか」と思われてしまうことがある。匿名ネット掲示板などで散々語られてきた「田舎あるある」で、「田舎でいい年こいた大人が自転車はない」「免許が取れない人、もしくは車が買えない人と思われる」などなど、こういう感覚は「免許なんかいらないでしょ」とまで言ってのける都会生まれ、都会育ちにはわからない感覚だろう。雪国ならこの傾向はさらに増す。
それはともかく、生活のための自動車であり、生きるための自動車である地域もある、むしろ日本全体で見ればそちらのほうが多いという実態を、財務省の役人はともかく政治家はわからないのだろうか。政治家もまたこうした地方選出が大半のはずなのに。取れるところから取る、という安易な考えでは本当に先の高齢男性の話ではないが「この国はおしまい」になってしまう。
ショッピングモールの裏手に回り、これから休憩という警備員の男性に少しお話を伺う。70代ということで本当に大変な仕事、聞けば大半は高齢者だという。確かに、構内の小さな横断歩道で交通誘導をしていた別の警備員の方は腰も折れ曲がり、そうとうな高齢者だということが目に見えてわかった。あとで聞けば80代とのこと。
「この辺の高齢者には仕事がありませんからね。警備員でも働ければ御の字ですよ」
それでも彼らの大半はバスでなく車やバイクで通っていると語る。高齢者の免許返上がいろいろ言われる昨今だが、高齢者でもこうして働くために運転しなければならない現実がある。
「バスや電車は現実的ではありません。この辺の通勤では当たり前のことです。だから車の税金が高くなるのは厳しいです。田舎で車は足であり、雨の日の傘代わりですから」
現場へのガソリン代の補助は出るが車自体は自腹、これに走行距離税が課せられることになったら追加負担してもらえるのだろうか。
「いや、無理でしょうね。そういうものですよ」
力なく微笑む。ちょうど搬入のトラックが数台、そちらのドライバーの方にも話を伺う。
「走れば走るほど利益がなくなるね。事業用はどうなるか知らないけど、こっちも取るようなら値段に上乗せされるかもね。額は知らないけど、もう被るだけの余裕はないよ」