国内

財務省の自賠責積立金6000億円踏み倒し問題 賦課金150円値上げに「奢り」が見える

「申し訳ない」と会見で述べた鈴木俊一財務大臣。写真は2022年10月、G20開催時(時事通信フォト)

「申し訳ない」と会見で述べた鈴木俊一財務大臣。写真は2022年10月、G20開催時(時事通信フォト)

 借りたものをそのままパクる、自分のものにしてしまうことを俗に「借りパク」と呼び、セコい、卑しいなど蔑みの意味を込めて使われている。その借りパクをするつもりかと疑いたくなるのが交通事故で重い障害を負った人の療養などに充てる自賠責保険(自動車損害賠償保険)を借りたままの財務省。鈴木俊一財務相が「申し訳ないと思っているが、そういう中で着実に確実に繰り戻し、誠意をもってお返ししていくことが大切だと思っている」と会見で述べて話題となった。俳人で著作家の日野百草氏が、借りパク疑惑があるなか値上げが決まっている自賠責保険の行く末について考えた。

 * * *
 自動車、オートバイなどユーザーすべてが強制的に入る自賠責(自動車損害賠償責任)保険。交通事故被害者の救済と、ユーザーの対人賠償に使われるとされてきた自賠責が、約6000億円(5952億円・2022年度末)も政府および財務省の便利なお財布として使われたまま、今日現在も完済されない。

 そして貸し出している側の国土交通省は「被害者支援の充実」として2023年度からの賦課金(現在32円)の値上げを発表した。被害者支援を充実させるためと言うなら財務省が6000億円、耳を揃えて返せば済む話を一般ユーザー=国民に対する値上げで対応するとした。最大で150円、額だけ見ればたいしたことはないと思うかもしれないが、もとを正せば財務省が返さないままの6000億円を返せば済む話で、財務省が返さないから国民に負担では納得できるはずもない。筆者はこの件を各媒体で取り上げてきたが、運用益の低金利による減少は仕方がないにせよ、財務省が返さないから値上げなのに「被害者支援を充実」という言い訳はあまりに理不尽であり、「ごまかし」であると受け止められても仕方のない話である。

 これに対して2022年11月11日、鈴木俊一財務大臣は「申し訳ない」と述べた。そして「1回でお返しするのは無理」として完済の目処のないことも認めた。2022年度は54億円の返済でこのままなら100年経っても完済できない。鈴木財務相はこれに7億円の繰り戻しと補正予算の12.5億円を追加すると表明したが、このペースでも完済まで85年かかる。つまり22世紀まで自賠責の積立金は返ってこない。

 2017年、当時のJAF(日本自動車連盟)会長はこの件に関して「踏み倒されるのでは」と予期していたが、まさしく、こんな返済計画は政府および財務省による「事実上の踏み倒し」宣言と言っても構わないだろう。そもそも、この6000億円は自賠責の積立金であり、道路特定財源などの目的税を一般会計に留保するなどの手口とも違う。民間ならば「詐欺」「泥棒」のそしりを受けても仕方のない行為である。

 しかし不思議なことに、この返済先延ばしの値上げは与野党による圧倒的多数で2022年6月9日に可決、成立している(6月15日公布)。自民、公明、国民、立憲、維新が賛成に回り、反対は共産党とれいわ、院内会派の有志の会のみである。これはどういうことか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト