デンマークとドイツとの関係が変化するのに従い、計画が変更になったり中断されたりしている。1963年に建設された道路・鉄道共用のフェーマルン海峡橋には、有事の際に交通を遮断できるよう強力な車止めが組み込まれた。
「冷戦時代の空気というものが伝わりますよね。それぐらいソ連という超大国の存在は西側諸国にとってものすごい脅威でした。いまウクライナ侵攻が私たちの目の前で起きて、そういう感覚がリアルに伝わるようなところもありますね」
今尾さんが地図の面白さに目覚めたのは中学1年生のときだ。
「4月に地形図の読み方の授業で、社会科の先生が実物の地形図を持ってきてくれて。そこから地図の面白さにはまりこんで、今につながっています」
小学生のころから鉄道好きだった。当時「乗り鉄」という言葉はなかったが、今尾さんは鉄道に乗るのが好きで、駅名を覚え、お経のようにひたすら唱えて遊ぶ少年だった。自分が乗り慣れている相鉄線の線路が書かれていたことが地形図への興味につながった。
「線路がいろんな形に延びていって、途中でつながったりしているのに惹かれたんです。なんでここで線路が曲がってるんだろう?といった感じで興味がわいて。線路が載っている地形図を、ひたすら集めるようになりました」
線路が曲がったり、まっすぐだったりするのにはそれぞれ理由がある。たとえば、線路は川を直角に渡るものだそうだ。
「川に支障物をたくさんつくると、洪水のときに邪魔になるんです。工費節減のためにも、最少の数の橋脚で最短距離を渡るために、川の手前でぎゅっとカーブして、直角に渡って、川の向こうでまたカーブしたりします。ただし新幹線はスピード優先で、川を斜めに渡るんですけどね。あれこれ考えながら地図を眺めるのが面白いんです」
岐阜羽島駅は大野伴睦の「政治駅」ではなかった
鉄道敷設やトンネル工事は自然との闘いでもある。難所の工事中に、落盤や出水で多くの人命が失われた。地理的な好条件を求めて、一見、不自然なルートを取ることもあり、「代議士がねじ曲げた」といった“伝説”がそこから生まれた。
「JR大船渡線の通称ナベヅル(鍋弦)線のように、確かに政治が影響したと思われる事例もありますけど、そういうのは意外に少ない。たいていは地形の条件で説明できますね」
大野伴睦が当初の計画を変更させた「政治駅」の例として引き合いに出されることの多い東海道新幹線の岐阜羽島駅も、運行上の必要性から設けられたものらしい。今のJR中央線が調布市を通らなかったのは住民の反対があったため、と言われているのも事実ではないらしい。
「市史にも書いてあったので、私も昔、自分の本にそう書いたんですが、鉄道忌避伝説を研究している人から手紙が来て、そういう事実は確認できないと教えられました」