情熱ある政治家がいない
山口:私個人としては、天皇と皇室は「制度」であり、その方々が「生身の人間」と想像したくないという気持ちがあります。皇室の方々は菊のカーテンの奥にいて、決して私たちと同じ人間ではないと国民から思われているほうが、天皇制やその権威を保てるのではないでしょうか。
多賀:眞子さまは世間からそう思われるのが重荷だったんじゃないかな。
三浦:佳子さまもそうでしょう。だから一部で、「佳子さまは皇室から出たがっている」と報じられました。ただ、愛子さまがどう思っているのかはわからない。
山口:愛子さまはファッションでも流行をむやみに追わず世俗から離れて、まさに皇族はこうあるべきという感じに育たれた。それとの比較で、秋篠宮家の姉妹の強い自我というのは、お父様の教育方針でしょうが、現代女性としては素晴らしくても、皇族の教育としては賛否が分かれそう。
三浦:愛子さまと佳子さまは「結婚したら皇室から出る」と言われて育った。女性宮家が法制化されれば、それから生まれた女性皇族は「結婚しても皇室に残る」ことを前提に育つことになります。今は過渡期なので、女性宮家が認められても「結婚したら皇室から出る」選択肢を残してほしいと思うのは自然なことでしょう。
山口:でも今の時代、私たちの生活や感覚は欧米化して「家」の縛りから自由になる道を選べるけど、皇族は「家」から逃れられない。“皇室から出たいけど義務だから耐える”という佳子さまに十字架に架けられたイエスを見るからこそ、皇室という特殊な制度を支持できるのだと思います。
三浦:皇族の努力や忍耐が国民に伝わることで尊崇の念が生まれるのは確かだと思います。それでも皇室典範を改正しないと限界は目に見えているので、どう変えるのかが重要ですね。
多賀:その時はぜひ、女性も君主になれるようにしてほしい。女性が皇位継承権を持てば、皇室消滅の危機を回避できます。
山口:日本の皇室にこれだけ女の子ばかり生まれるなんて、制度そのものが悲鳴をあげているみたい。速やかに皇室典範を変えないと、私たちは皇室が徐々に衰退して、終わりに向かうのをただ見つめることになります。
三浦:残念ながら、強い政治力を持ってこの問題に情熱を燃やす政治家が見当たりません。他に選択肢がない状況にならないと今の政治家はリスクを負わないので、結局、今年も何も変わらない可能性が大きい。
多賀:だからこそ、もっと皇室が前に出て情報発信すれば、個々の皇族の方々の素晴らしさや魅力を国民が理解できるはずです。特に今の若い人が皇室に無関心で「皇室離れ」が進むなか、若い世代の関心を引くために愛子さまや佳子さま、悠仁さまの役割は非常に大事なので、どんどん発信してほしい。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
多賀幹子(たが・みきこ)/1949年生まれ、東京都出身。ジャーナリスト。お茶の水女子大学文教育学部卒業。英米に10年以上在住。英王室を始め、女性、教育、海外文化などをテーマに取材、執筆、講演。近著に『孤独は社会問題』(光文社新書)。
三浦瑠麗(みうら・るり)/1980年生まれ、神奈川県出身。国際政治学者。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。株式会社山猫総合研究所代表。近著に『日本の分断』(文春新書)。
山口真由(やまぐち・まゆ)/1983年生まれ、北海道出身。NY州弁護士。東京大学法学部卒。財務省勤務を経て、2009~2015年、弁護士として法律事務所に勤務。現在は信州大学特任教授。近著に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)。
※週刊ポスト2023年1月13・20日号